MQAで聴く女性ボーカル

 

第2回 バルバラ〜ベスト・セレクション(MQA-CD)

 

熱き塊 ぐいぐいと

引き寄せられるうた

詩のなかに

人生が聴こえてくる

文:野村和寿


国内オリジナル・マスターテープを基にした2018年のDSDマスターを352.8kHz/24bit 変換しMQA-CD化したものです。

 

アーチスト  バルバラ 

ジャンル:フランス・シャンソン

 

ユニバーサルミュージック 

2,800円+税(限定生産盤)

◎実際の販売価格は変動することがあります。

 



■収録曲

 

 

01,黒いワシ

 4:57 70年発表

02,パリとゲッティンゲン

 2:42 65年発表

03,死にあこがれて

 2:46 64年発表

04,ピエール

 3:01 64年発表

05,報道写真

 2:48 65年発表

06,私の幼いころ

 2:56 68年発表

07,黒い太陽

 3:59 68年発表

08,小さなカンタータ

 1:57 65年発表

 

 

 

09,ナントに雨が降る

 4:05 64年発表

10,サンタマンの森で

 1:32 64年発表

11,マリエンバード

 4:43 70年発表

12,ブルネットの貴婦人

 3:58 67年発表

13,孤独のスケッチ

 3:52 65年発表

14,眠れぬままに朝が来て

 2:43 81年発表

15,私の恋人たち

 4:05 68年発表

16,我が麗しき恋物語

 4:49 67年発表

 

好評連載中!

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バルバラ(30-97年)は、ピアノ弾き語りの自作自演のフランスのシャンソン歌手です。バルバラの名前はずっと昔に、ステレオサウンド誌で、著名なオーディオ評論家・瀬川冬樹氏( 35-81年)が、ご活躍されていた70年代後半に、よくバルバラのアナログ盤を試聴に使っていらしたのを思い出します。     

 

瀬川さんは、米JBLのスタジオ・モニタースピーカー4343や英国ロジャースのLS3/5Aをドライブするのに、マークレビンソンのプリアンプLNP-2Lや、SAEのパワーアンプ2500を使い、アナログプレーヤーは、日本のマイクロの超ど級の糸ドライブのものや、ドイツの放送局用EMTの927を使い、試聴盤にバルバラのアルバムをかけていたいらしたのをステレオサウンド誌面で拝見していて、バルバラってどんなボーカリストなんだろう?と思いをたくましくしていました。

 

オーディオ・ファンには、バルバラという女性歌手は懐かしい名前でもあります。たしか、瀬川氏は、たしか、誌面では、透明感のある解像力と滑らかなボーカルを大事にされていました。      

 

そのバルバラですが、このほど16曲からなるベスト盤が、MQA-CDとなってユニバーサルミュージックから登場しました。シャンソンはフランス語で語られる詩を音楽にしたいわば、「音楽の詩」です。私のようにフランス語が堪能でない者にとって、今回のベスト盤のライナー・ノーツに記載されている楽曲の日本語訳詞を読んで、バルバラの音楽を楽しんでみることにしましょう。 

 

1曲めの「黒いワシ」70年発表)はバルバラを代表するヒット曲。歌詞を要約してみますと「ある晴れた日、もしかすると夜だったのかもしれない。夢をみていた。自分のもとへ飛んできたルビー色の目をしたワシが、自分の頬の近くまで来て、(わたしには)自分自身の幼かった頃の思い出を一緒に連れてきたように感じてしまった。ワシが昔の自分の元へ自分を連れて行ってくれるのではないか」というようなことをうたった実に考えようによっては深い意味をはらんだ詩です。

 

バルバラは、少しかわいた声で、たんたんと突き放すように、ピアノの弾き語りでうたうのですが、その歌は少しリバーブ・エコーがかかり、シンプルなドラムスとギターとコーラスからなるバックを従えて。実にクールで、うたっていくうちに、だんだんと熱き塊となって押し寄せてくるのがよくわかります。  これはわずか5分弱の一人オペラで、「詩のなかに人生がみえる」のです。     

 

3曲めの「死にあこがれて」は、アコースティックなベースをひく、シェル・ゴードリーです。バルバラのピアノ弾き語りとともに、タイトルとは裏腹に、元気な曲が流れます。その詩がまた秀逸です。要約してみますと「死ぬのなら、老いさらばえて死を待ちながら死にたくはない。自分が汚れを知らない十分に美しいときに。ひっそりとした庭と打ち寄せる波、1本のバラの美しい花があれば。戦争で人を傷つけて、しまいには国のために死ぬのではなくて、自分は、もう自分のためにできることはしたから、何も望まないで安らかに死ぬために待ちたくない」と力強く歌うのです。ウッド・ベースの力強さとともに、女性の意思の強さを感じ思わず後ずさりしてしまいそうです。     

 

12曲めの「ブルネットの貴婦人」は、本アルバム中唯一のジョルジュ・ムスタキとの愛のデュエットです。背の高いブルネットの髪の女をバルバラが、月の光のなかで、彼女のために音を探し流しながら羽根ペンで音を紡ぐ男をムスタキがと、ふたりは、朝露と霧のバイオリンに包まれながら、交互に愛を語らうようにうたいます。ふたりはやがてひとつになり結ばれて行くという、実に意味深でロマンチックなふたりの素敵な音楽世界です。

 

バルバラの透明な歌には、力強さがひそみ、それが聴く者に勇気を与えてくれる。それは日本語の訳詞を読んでさえも、「16曲の聴く音楽による文学」としての豊かな時間を、聴く者に与えてくれているのです。

 

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文:野村和寿

 

 

 なお最初に触れた瀬川冬樹さんが試聴盤にされていたバルバラのライブ『ボビノ座のバルバラ・リサイタル』が、最近SACDシングル・レイヤーで発売になりました。(ステレオサウンドSSVS-013-014  税込み5,500円)

 


 

14曲めで紹介した、ジョルジュ・ムスタキ(34-2014年)はフランスのシンガーソングライターです。74年発表の「私の孤独」が有名です。

私の孤独~ジョルジュ・ムスタキ・ベスト(通常盤)   ユニバーサルミュージック

 

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執筆者紹介

78年FMレコパル編集部に参画して以来、約20年にわたりFMレコパル、サウンドレコパルと、オーディオと音楽の雑誌編集者を長く務める。誌上では、オーディオのページを担当するかたわら、新譜ディスク紹介のページを長く担当した。海外のオーディオ・メーカーの取材の際、宿に戻り遠く離れた土地で日本のボーカルを聴いてジーンときたという体験をし、ボーカルがいかにオーディオに人の心にダイレクトに響くかに開眼した経験をもつ。 

 

ポップスやロック、ジャズ、クラシックといった多方面のアーチストと交流を深めるうちに、音楽はジャンルではなく、その楽しさにおいては、なんら変わらないことに確信を持つ。ハイレゾの今日に至るも、ますます、お薦めボーカルをジャンルを取り払って探していきたいと思っている。好評連載中の『MQAで聴くクラシックの名盤』はすでに連載が17回を数えている。

 

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