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MQAで聴くクラシックの名盤

第7回


音楽祭の開放感いっぱいの演奏を

MQAハイレゾで満喫してみたい

 

文:野村和寿


 

夏に通常、避暑地で開かれる音楽祭(フェスティバル)は、普通のコンサートとはまたひと味違って、ゆったりとした雰囲気でアーチストも観客も、音楽を本当に体いっぱいで味わうことができる。今回MQAでリリースされたのは、名ピアニスト マルタ・アルゲリッチと彼女の若き仲間たちによる肩の凝らない作品ばかりである。

マルタ・アルゲリッチ&フレンズ ライブ アット 

ルガーノ・フェスティバル2013

 

レーベル名 ワーナー・クラシックス

レコード会社 ワーナー・ミュージック・ジャパン

ハイレゾ音源提供 e-onkyo music

http://www.e-onkyo.com/music/album/wnr292585/

 ファイル形式:MQA Studio 44.1kHz/24bit

¥2,988(税込価格)

 ◎実際の販売価格は変動することがあります。価格は税込価格(消費税10%)です。

スイス南部といってもイタリア・ミラノまで直線距離で60キロメートルの風光明媚な都市ルガーノは、昔から音楽が盛んな都市で、鬼才といわれた指揮者ヘルマン・シェルヘンがルガーノ放送交響楽団(現スイス・イタリア管弦楽団)を指揮した極めて個性的な演奏のベートーヴェン交響曲全集は、今でも語り草になっている。

 

2002年からこのルガーノで、アルゼンチン出身の女流ピアニスト、マルタ・アルゲリッチの主催するルガーノ・フェスティバルが2016年まで開催されていた。アルゲリッチは1965年に開催された第7回ショパン国際ピアノコンクールで優勝したちまち世界的なピアニストとして知られている。ちなみにこのときの4位だったのが日本の中村紘子(1944-2016年)であった。

 

アルゲリッチとその仲間たちがピアノを中心としてピアノ協奏曲、バイオリンやチェロをはじめとするソナタ、ふだんはなかなか聴くことが出来ない室内楽作品の数々を、続けて演奏するという音楽祭であった。マルタ・アルゲリッチは通常はなかなか演奏会を開かず、録音をリリースすることも少ない。今や巨匠の域に達しているマルタ・アルゲリッチのピアノ演奏を聴こうと、毎年、ルガーノに音楽ファンは集まった。

 

その2013年のライブ演奏が、地元ルガーノの放送局(スイス・イタリア語放送)によって録音され、その音源の権利を、旧EMIそして現ワーナー・クラシックスが手に入れ、このほどMQAハイレゾとなってリリースされた。

 

CDフォーマットでリリースされていたときは、3枚組にもなっていたアルバムだが、ハイレゾでは1度のダウンロードで、比較的安価でハイクオリティの音源を入手することができる。

ここには、ピアノを通して、いかに楽しい音楽が世の中にはいっぱい作曲されているかを一同に聴くことができる。

 

ベートーヴェンの初期のピアノ協奏曲第1番は、特にウィットに富む最終楽章を聴くこともできるし、同じベートーヴェンが作曲した曲のなかでも、第1楽章が長大なことでなかなか演奏を聴く機会のない、チェロ・ソナタの第2番をアルゲリッチのフレンズ(仲間)である、ラトヴィア出身の高名なチェリスト、ミッシャ・マイスキー(1948年~)とアルゲリッチのコラボで聴くこともできる。

 

またイタリア出身の「鳥」の声の作曲家といわれるレスピーギ(1879-1936年。代表曲は、『ローマの松』をはじめとするローマ三部作)の珍しいバイオリン・ソナタや、名ピアニストでもあったフランツ・リスト(1811-1886年)の作曲したバイオリンとピアノのための小曲「悲しみのゴンドラ」に触れることもできる。

 

バイオリンを弾いているのは、今、売り出し中の若手で、練達のルノー・カピュソン(1976年~バイオリン)とゴーティエ・カピュソン(1981年~チェロ)のカピュソン兄弟や、アリッサ・マルグリス(バイオリン)とユラ・マルグリス(1968年~ピアノ)のマルグリス兄妹、若い才能のほとばしりに目を見張る演奏を聴くことができる。

 

また、ドビュッシー(1862-1918年)の「小組曲」をアルゲリッチとクリスティーナ・マルトンの1台のピアノを4手での演奏で聴くことも楽しい。また、ドイツ出身で19世紀のパリで花を咲かせた作曲家オッフェンバック(1819-1880年 ロザンタール[1904-2003年]によるバレエ編曲)の「パリの喜び」に至っては、3台のピアノのためにさらに編曲した演奏であり、3人のピアニストによる丁々発止のピアノの掛け合いは、ゴージャスで華やか。もっとも華やかなりし頃の19世紀のパリを彷彿とさせ、まさに聴きものである。

 

 

こうした音楽祭ならではの一番の楽しみは、出演したアーチストが一同に会して演奏する場面である。サン=サーンス(1835-1921年)の『動物の謝肉祭』は、2台のピアノ (もちろん、その一人はアルゲリッチ)、バイオリン2本、ビオラ、チェロ、コントラバス、フルート、クラリネット、パーカッションによる小編成のオーケストラによる演奏である。

 

「謝肉祭」とは、もともとヨーロッパのカトリックの宗教儀式を元にして始まったカーニバルで、必ず仮装した行列がつきものである。この時期だけは羽目を外しても大丈夫という楽しい催しものだ。これを、作曲者のサン=サーンスは、動物たちが仮装してパレードするという14曲あるウィットに富んだ、いわばとても品のよい冗談音楽の走りともいえる組曲に仕上げている。幾つもの工夫を秘めたとても楽しいくだけた音楽である。

 

いつもは低音で下支えの役に回っている弦楽器コントラバスが、ソロをとって弾く第5曲「象」。ここでは、象は巨体を動かしながら、ベルリオーズ(1803-1869年)が作曲した「妖精の踊り」を難儀そうに踊る。

 

第11曲「ピアニスト」では、2人のピアニストがオーケストラと合奏するのに、間違えてばかりいて演奏がずれてしまう、という情景を皮肉たっぷりに揶揄してみせる。かと思うと第13曲「白鳥」は、チェロの名曲として、きっと耳にしたことがあると思う。優雅に湖を泳いでいる白鳥の様子が、チェロによって静かにそして優雅に表現される。ベルギー出身のアレクサンドル・ドブリュ(1976年~)のチェロ独奏で聴ける。

 

音楽祭はいろいろなアーチストが一堂に会していろいろな演奏会が開かれる。演奏会場に入ると客席に、きょう出番のない有名アーチストが席にいて、演奏を聴いている光景にも出くわす。また予期せぬ取り合わせの演奏会も時には披露される。マルタ・アルゲリッチのもとに集まった音楽仲間たちの演奏は、普通の演奏会に比べても、アットホームなものになっていたと演奏から察することができる。

 

残念なことに、ルガーノ・フェスティバルは2016年の第14回をもっていったん終了してしまったが、マルタ・アルゲリッチは、日本の大分でも毎年5月に「別府アルゲリッチ音楽祭」を主催していて、すでに2017年で第19回を数えている。このアルバムを聴いて、音楽祭への興味が増したら、一度音楽祭に足をむけてみるのもよいと思う。(楽曲紹介に続く)

 

 

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