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MQAで聴くクラシックの名盤

第5回


全9曲ベートーヴェンの交響曲を

全部自分のものにしたい!

 文:野村和寿


 

 ベートーヴェンの交響曲全9曲を、好きなときに取り出してMQAのハイレゾで聴く。こんな贅沢なことができるようになった。それもバレンボイム指揮のベルリン・シュターツカペレによる本家本元とびきりの名演奏である。                                                                                                

 

Beethoven : The Symphonies

ベートーヴェン 交響曲全集

ダニエル・バレンボイム指揮

ベルリン・シュターツカペレ

 

レーベル名 ワーナー・クラシックス

レコード会社 ワーナー・ミュージック・ジャパン

ハイレゾ提供 e-onkyo music

http://www.e-onkyo.com/music/album/wnr825646567249/

 

 

ファイル形式

MQA Studio 96kHz/24bit

3,068円(税込価格) 

 

ワーナークラシックス UK DIVISIONバージョン 2020年4月 追加発売!

 

https://www.e-onkyo.com/music/album/wnr190295234515/

 

MQA Studio 96kHz/24bit

2,619円(税込価格)

 


◎実際の販売価格は変動することがあります。価格は税込価格(消費税10%)です。


ベートーヴェンの第1番から第9番までの交響曲全集を所有するということは、レコード音楽愛好家にとっては、まさに夢の夢であった。ちなみに78回転のアナログSP盤の全集のときは、フェリックス・ワインガルトナー(1863-1942年)指揮ウィーン・フィルほかの全集が、42枚組。これがアナログLP盤になると、ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908-1989年)指揮ベルリン・フィルの全集が、8枚組、CDの全集では、同じくカラヤン指揮ベルリン・フィルの全集が6枚組。

 

ところが、MQAのハイレゾ・ヴァージョンのバレンボイム指揮ベルリン・シュターツカペレのベートーヴェンの交響曲の全曲演奏が、アルバム1回のダウンロードで、全部で37トラック,総演奏時間379分。

 

このMQAのハイレゾが、わずか3,000円ほどで入手できる。まさにお買い得である。まことに便利な時代になったものである。安価なこともうれしいが、それ以上に、いつでも、ベートーヴェンの9曲ある交響曲をいつでも、好きなときに、聴くことができるという喜びは、まさにひとしおである。※実際の販売価格は変動することがあります。

 

ベルリン・フィルと並んで歴史と伝統を誇るもう一つのベルリンのオーケストラがベルリン・シュターツカペレ(日本語表記では、ベルリン国立歌劇場管弦楽団とも、ベルリン州立歌劇場管弦楽団とも呼ばれている)

 

ベルリン・シュターツカペレの日本公演を聴いたのは、1987年のことだった。聴き慣れていたウィーン・フィルともベルリン・フィルとも異なる、渋いいぶし銀のような音色に、すっかり魅せられてしまった。指揮はオトマール・スイトナー(音楽監督・1964-1990年、生没年1922-2010年)。当時、たびたびNHK交響楽団の指揮もしていた巨匠だった。

 

私は、後日、オーディオ評論家で年に100回以上も演奏会に通い詰めていた故・金子英男氏に、そのわけを訊ねたことがあった。

 

金子氏は「オーケストラの並び方が、西側にくらべて、弦楽器奏者たちが、つめて座っているのです。詰めて座ると必ずしも自由に弾きやすくはなくなりますが、音は一つの塊となって、観客のもとに飛んでくるのですよ。東のオーケストラは決して恵まれた楽器を使っているわけでもないのに、たしかに、古風で渋い音楽が出ますね」。何度も演奏会に足を運んでいる金子氏が聴くと、オーケストラの並び方にも特徴があることがわかり、なるほどと思った。

 

1989年11月9日、東西ベルリンの交流をはばんでいた「ベルリンの壁」は突然崩壊する。今からもう29年も前の出来事になった。それを契機として、東に存在していた国家、ドイツ民主共和国(DDR)があっけないほどに消滅し、現在のドイツ連邦共和国となり、ドイツは統一された。壁の崩壊前は ベルリン・フィルの本拠地場所が、西ベルリンにあったのに対して、ベルリン・シュターツカペレは東側にあったので、DDRの顔でもあった。社会的な変化は、音楽にも色濃く影響を与える。

 

ベルリンの壁の崩壊直後の、東ドイツのオーケストラはどうなったのだろう? 私は少し心配になった。ベルリンの社会状況を色濃く反映して、あのいぶし銀のような音色は元のままなのだろうか? 壁の崩壊した後の1992年にベルリン・シュターツカペレを音楽監督として率いたのは、当時、中堅の50歳だった指揮者ダニエル・バレンボイム(1942年〜)だった。

 

バレンボイムは彼の自伝(『ダニエル・バレンボイム自伝』改訂版ダニエル・バレンボイム著・蓑田洋子訳、2003年・音楽之友社刊)のなかで、ベルリン・シュターツカペレのことを「ベルリン国立歌劇場で私が出会ったオーケストラは、非常に素晴らしいアンティーク家具だった。けれどもいく層ものホコリに本来の美しさを覆い隠された家具に似ていた」。

ちょうど、アンティーク家具がホコリをはらうことで、美しさが現れるように、西側の洗練されたオーケストラの音とは違う、ヨーロッパのいにしえの輝きが隠れており、磨き込めば込むほど、1930年代のヨーロッパのオーケストラがもっていた、正にいぶし銀の輝きが現れたという意味だと思う。

 

息を吹き返したベルリン・シュターツカペレは、ドイツという国、ベルリンという地にとって欠かすことの出来ない、お家芸でもあるベートーヴェンの交響曲全曲を、録音する挙に出る。それは、バレンボイムが、音楽監督になって7年後の1999年のことだった。録音の前に1997年にバレンボイムとベルリン・シュターツカペレは、世界をまたにかけてベートーヴェンの全曲演奏をウィーン、パリ、ロンドン、ニューヨーク、そして東京で行っている。本番演奏だけでも都合5回。もちろん全曲録音の非常によい予行演習を兼ねていたことは想像に難くない。本番を重ねるうちにバレンボイムの意図するベートーヴェン像を、ベルリン・シュターツカペレのメンバーたちは、より明確に把握していったに違いない。

 

ついに1999年5月から7月のわずか2ヶ月間の間に、ベートーヴェンの9曲ある交響曲を一挙に録音してしまうのである。録音は、旧東ドイツの放送局があった広大な場所を作り替えて、音楽スタジオ、フンクハウス・ナレーバ・シュトラーセで行われた。

 

このスタジオは、単にスタジオというよりも、クラシック録音用に特別に設えられた天井の高い、響きの美しい音楽ホールのような施設である。録音スタッフは、旧テルデック(現ワーナー・クラシックス)のチームだった。テルデックは、もともとドイツの電気メーカーだった1932年に創立のテレフンケンから発した伝統あるレコード・レーベルで、1950年にテルデック・レーベルとなった後も、モーツァルト演奏で有名な女流ピアニスト・マリア・ジョアン・ピリス(1941~)、斬新な音楽解釈で名をはせた指揮者ニコラウス・アーノンクール(1929-2016年)などがこぞって録音をしていたが、2001年からはワーナー・クラシックスの傘下に入った。

 

本全集の任意の1曲をMQAのハイレゾで聴けばわかる通り、バレンボイム指揮ベルリン・シュターツカペレの演奏は、今聴いても、いぶし銀のような輝きをもつ、古くからのレコード愛好家にとっても懐かしいベートーヴェン演奏に聴こえるのではないだろうか?

それは、指揮者のバレンボイムが尊敬してやまない、ドイツの巨匠ウィルヘルム・フルトヴェングラー(1886-1954年)がベートーヴェンを指揮して現代に甦ったような、そんな演奏なのである。エピソードとして、バレンボイムが少年の頃、そのフルトヴェングラーに面会したことがあり、バレンボイムがフルトヴェングラーに頭をなでられている写真が残っている。

 

バレンボイムの演奏の秘密は、彼が高名なピアニストでもあるということに関係しているように思われる。ピアニストは、コンサートで自分の演奏を披露するときに、音楽の曲のイメージを把握してきちんと整理し、聴かせどころを考えた上で演奏する。即興的な感興にまかせた音楽的な盛り上がりを、きちんと聴衆に向けて自分の意志として伝えることがピアニストにとっては大事なのである。つまり、音楽の中の即興性の要素を、ピアニストとしてバレンボイムの音楽の中に備えている。

 

これを、オーケストラの指揮に敷衍させるとすれば、バレンボイムの指揮は、ベルリン・シュターツカペレの歴戦のメンバーをうならすだけの、ベートーヴェン像をもっていたに相違ない。それは、ベートーヴェンの楽譜に隠されている、ほんのちょっとした発見の積み重ねなどや、いつもならば気がつかないベートーヴェンの工夫でさえも、バレンボイムは、音楽家として見抜いてしまったからではなかろうか。それが結果として、凄いベートーヴェンを演奏してしまうという結果につながったのではないだろうか。それは、巨匠フルトヴェングラーが、演奏中の創意工夫で、メンバーたちをうならせ、驚くほど発見の多い演奏をしたのに、どこか通じるところがあるようにも思えてしまう。(次ページ、各曲目の解説に続く)

 

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