MQAで聴くクラシックの名盤

第11回


心躍るテンポ

晴れやかなメロディー

文:野村和寿


 

海に面して陽光降り注ぐイタリアを音楽にしたらどうなるだろうか?イタリア人よりも、その喜びはむしろ、異邦人のほうが強く感じられるのではないだろうか?古今東西の作曲家ロシアのチャイコフスキーも、オーストリアのモーツァルトも、そしてドイツのメンデルスゾーンも。 

 

 

メンデルスゾーン 交響曲第4番イ長調作品90 

 「イタリア」 

 

クリスティアン・ティーレマン指揮

ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

レーベル名 ワーナー・クラシックス

レコード会社 ワーナー・ミュージック・ジャパン

ハイレゾ提供 e-onkyo music

http://www.e-onkyo.com/music/album/wnr0793052112219/

ファイル形式:MQA Studio 48kHz/24bit 

1,951 円(税込価格)

◎実際の販売価格は変動することがあります。価格は税込価格(消費税10%)です。

 

朝の陽光降り注ぐ、イタリア・ナポリ、ホテルのテラスで、イタリアのコーヒー・エスプレッソとともに美味しい朝食をいただくことをちょっと想像してみてほしい。イタリアのナポリっ子はもちろんのこと、それも日頃はなかなか陽光に恵まれることの少ないドイツからの旅人だったら、その目の覚めるような明るい光への喜びはいかばかりであろうか? ドイツやオーストリアから、イタリアへ向かうには、アルプスの山々が立ちはだかり、人々は、オーストリアのチロル地方とイタリア・ボルツァーノを結ぶ標高1350mのブレンナー峠を馬車で越えなければならなかった。旅人たちは18世紀、そのブレンナー峠をはるばる越えて、イタリアを目指した。少年モーツァルトや文豪ゲーテも。

 

19世紀にはもう一人の若き天才作曲家フェリックス・メンデルスゾーンは、1821年12歳のとき、『ファウスト』や『イタリア紀行』を著した文豪ゲーテと面会している。すでに、72歳になっていたゲーテは、自分が1763年ゲーテ14歳の折り、7歳だった神童モーツァルトの演奏に直に接している。そのゲーテが老境に達して、12歳のメンデルスゾーンの弾くピアノを天才と絶賛しているのである。そしてゲーテも旅したイタリアに、21歳になった若き青年メンデルスゾーンも向かったのだった。1830年10月、ドイツ(当時のプロイセン王国)からイタリア・フィレンツェ、ローマ、そしてナポリへと1831年7月にかけて、約9ヶ月にも及ぶ長い旅をした。

 

イタリア紀行の印象を、ドイツに帰国してから交響曲として作曲したのが、1831-33年(メンデルスゾーン若き22歳から24歳)にかけて作曲した交響曲第4番「イタリア」である。

 

 

第1楽章は、ちょうど、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」の第1楽章が、「田舎に着いたときの愉快な目覚め」という副題がついているのを思い出すような、そんな軽やかでしかも、愛らしくすがすがしいイタリアの陽光をいっぱいに受けた音楽である。木管楽器の小気味よい軽快な調べと、弦楽器の精緻なアンサンブルによる躍動が、ウェットさや暗いところはみじんもなく、心の躍動となって高らかに伝わってきて、一度耳にしたらもう忘れられなくなる。

 

 

第2楽章は、打って変わって護衛歌(巡礼の歌)のような、静かな歩みを感じさせる。これもカトリックのキリスト教の国イタリアなのである。メンデルスゾーンは14歳のときに、音楽の大先輩ヨハン・セバスチャン・バッハ(1685-1750年)の大曲「マタイ受難曲」の楽譜を母方の祖母から誕生日のプレゼントとしてもらい、それから当時誰も顧みられていなかった「大バッハの復活」へと心血を注いだことでも知られている。バッハの管弦楽組曲第3番の「アリア」は、のちに、「G線上のアリア」というバイオリン曲になったことで、有名だが、それを彷彿とさせる、低音の持続的なつながりが、延々と続いていく。これが、護衛歌を彷彿とさせるゆえんだろう。

 

 

第3楽章は、アルプスに源流をもち、イタリア北部を横断して、アドリア海にそそいでいるイタリアでもっとも長いポー川の流れをイメージさせるような静かに流れるメロディーは、ゆったりと静かに流れながら、金管楽器ホルンが響き、あちこちで田舎の豊かな営みが垣間見れるようだ。

 

第4楽章は、「イタリア」というタイトルの元ともなった、ナポリの活発で陽気なダンス「サルタレロ」をメンデルスゾーンが初めて見たときの楽しさをそのまま音楽にしている。サルタレロは13世紀からナポリに伝わる性急に駆け抜けるようなテンポで楽しそうな踊り。手拍子とともに民族衣装を身にまとった男女がまるい輪をつくり、速いテンポで回り、その中の1組のカップルが中央でソロダンスを披露しぐるぐる回るというなんとも素朴な踊りだった。動画検索サイト・You Tube ITALIA:Saltarello di Amatrice で踊りの様子は見ることが出来る。

 

目の回るような速さをメンデルスゾーンは、木管楽器と弦楽器との9つの連なる音符とのコラボレーションによる精緻な動きで、目にもとまらない活発さを表現して、実に楽しい曲になっている。しかし演奏する側はさぞやこのテンポで、緊密なアンサンブルを持続していくことは大変に違いない。

 

本アルバムが収録されたミュンヘン市のガスタイク・フィルハーモニー  wikipedia
本アルバムが収録されたミュンヘン市のガスタイク・フィルハーモニー wikipedia

2009年12月31日 ドイツ・ミュンヘンのガスタイク・フィルハーモニーでの演奏会のライブ録音である。演奏はミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 

 指揮は、2004年から2011年まで音楽監督だったクリスティアン・ティーレマン(1959年〜)。

 

本曲の演奏は、通常のメンデルスゾーンの「イタリア」の演奏よりも、かなり速いテンポで、ぐんぐんと聴く者に迫ってくる。ティーレマンのこの精緻な演奏が可能だったのも、幻の指揮者チェリビダッケが1979年から1996年まで17年間もこのオーケストラの音楽監督にあって、精緻な音楽アンサンブルを鍛え上げたことが要因のひとつだろうと思われる。なお本録音は、ミュンヘン・フィルハーモニーが定期演奏会をライブ録音した自主制作盤を、ワーナー・クラシックスが全世界販売を行っているものだ。

 

指揮者ティーレマンは、ミュンヘンを離れた後は、同じくドイツのドレスデン国立歌劇場の音楽総監督の地位にあり、今では非常に少なくなった生粋のドイツ生まれの骨太でしかも緊密な音楽で定評がある。

 

演奏時間30分強のメンデルスゾーンの交響曲第3番「イタリア」は、イタリアのいろいろな楽しさを味わうことができるまさに佳曲である。

 

イタリア人の作曲家がイタリアのことを音楽にした例はもちろんヴィヴァルディの『四季』や、ヴェルディの数々のオペラ作品などたくさんある。しかしイタリア以外で生まれ、イタリアに憧れを抱いた作曲家も多くいる。

 

たとえば、オーストリア生まれのモーツァルトは、『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』『コジ・ファン・トゥッテ』というイタリア語による3大オペラを残し、シューベルトは管弦楽曲「イタリア風序曲」第2番を残している。また、イタリアから遠くロシア生まれのチャイコフスキーも弦楽6重奏曲「フィレンツェの思い出」、ストラヴィンスキーもバレエ音楽「プルチネルラ」を残している。またドイツ生まれのR.シュトラウスは、管弦楽曲「イタリアから」を残している。イタリアへの憧れは作曲家にとってとても大事なモチーフだったのである。

 

Christian Thielemann Wikipedia
Christian Thielemann Wikipedia

 

(文/野村和寿)

 


メンデルスゾーン 交響曲第4番イ長調作品90 

 「イタリア」

 

1,第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ(活発に 快速に) 10:58

2,第2楽章 アンダンテ・コン・モート(歩くような速さで 動きをもって) 7:09

3,第3楽章 コン・モート・モデラート(中ぐらいの速さで 動きをもって) 6:27

4,第4楽章 サルタレロ(プレスト)(極めて速く 踊りサルタレロのように) 5:38

 

ファイル形式:MQA Studio 48kHz 24bit 

http://www.e-onkyo.com/music/album/wnr0793052112219/

価格:1,991円(税込価格)

◎実際の販売価格は変動することがあります。価格は税込価格(消費税10%)です。

 

執筆者紹介

雑誌編集者を長くつとめ、1975年にカール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団日本公演のブラームス交響曲第1番の最終楽章で、鳥肌が立ち、帰り道をさまよった経験を持つ。爾来、クラシックを生涯の友として過ごしてきた。編集者時代、クラシック以外のロックやジャズといったジャンルのアーティストと交流を深めるうちに、クラシックと、楽しさにおいて何も変わらないことに確信を持つ。以来、ジャンルを取り払ってハイレゾまで、未知なる音の発見の喜びを日々捜している。MQAを提唱しているイギリス・メリディアンには1991年以来2回オーディオ雑誌の取材で訪れ、基本コンセプトに魅せられた。またカメラ好きでもあり、特にドイツの光学製品に魅せられ、ライカのカメラ群とそのレンズの蒐集に執念を燃やしている。


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