1⃣ 2⃣ 3⃣ 


曲目解説 Part2

第15曲から第18曲 スペイン歌曲集 

 

16-17世紀のスペインの作者不詳の詩を、ドイツ人エマニュエル・ガイベル(1815-1884)と、ドイツ人パウル・ハイゼ(1830-1914)がスペイン語からドイツ語に翻訳した詩に、ヴォルフが曲をつけた歌曲集

 

スペイン歌曲集 聖歌曲集第5曲 ドイツ人ガイベルによる作詞

 

15,花でつつんで

 

恋につかれた可憐な女性が、恋の苦しみから、香しい陶酔から死を夢見てしまう。「甘い香りの花につつまれて死んでいくの」とうたいます。あたり一面、花の香りは、恋の息吹、ジャスミンの花や白百合で、墓を作って欲しいと懇願します。

 

16,主よ、この地に

 

ゴルゴダの丘で、十字架にはりつけの刑に処せられるイエス・キリストと罪深い我々人間との対話とされています。イエス・キリストは茨の冠をかぶせられてさえも、受難を強いる人間の不条理さの叫びをやさしく慰めてくれる。ヴォルフは痛切な曲にしています。「この地にはなにが生まれるのでしょうか?」イエスは「茨の冠はわたしのために、あなたは花の冠を」とうたいます。

 

スペイン歌曲集 世俗歌曲第2曲 ドイツ人ハイゼによる訳詞

 

17,髪のかげで

 

「頭髪のちぢれて巻いている毛(=巻き毛)にわたしの愛しい人が寝入ってしまった。起こしちゃおうか、いえ、だめよ!だめだめ!丁寧に毎朝とかしているわたしの巻き毛に、そよかぜ。わたしの側で眠っている。彼はわたしのことを恋して『長いこと苦しんでいる』とよくいっている。でも、起こしちゃおうかしら、いえだめよ!」とうたいます。

 

スペイン歌曲集 世俗歌曲集第13曲 ドイツ人ガイベルによる訳詞

 

18,口さのない人

 

「陰口をたたく人は、愛や好意に恵まれない人よ。自分を愛してくれる人がいないから、きっと、あんなにひどいことをするんだわ。好きなようにいっていれば、いいのよ。わたしを愛してくれる人をわたしは愛し、愛して愛されるの」とうたいます。

 

第19曲 ゴットフリート・ケラー(1819-1890・スイス)の6つの詩による

19,明るい月

 

静謐で神秘的なうた。「わたしは年老いて死期がもう近づいている。明るい月が遠くに冷たく輝いている。わたしが美しかった頃の星がほのかにまたたいている。浜辺がさざめいている。彼方にはわたしの青春の国があり、もうすぐ、車に乗ってわたしは楽園にはいるだろう。楽園にはマリア様がすわっていて、膝の上に、幼な子イエス様が眠っておられ、戸口では聖ペテロ様が古い靴をつくろっておられる」と天国を空想するという幻想的なうたです。

 

第20曲 ロベルト・ライニック(1805−1852・ドイツ)詩 

女声のための6つの歌より

20,夏の子守歌

 

「お日様も休もうとしている夕暮れ、ゆりかごのなかで、わが子もやすもうとしている。ゆっくりと揺れるゆりかご。おやすみ、わたしのかわいい坊や。小鳥や虫たち、星たちも、天使も坊やを見守ってくれている。おやすみ、わたしのかわいい坊や」とうたいます。

 

 

*第21曲から第22曲

 ヨーゼフ・フライヘル・フォン・アイヒェンドルフ(1788-1857・ドイツ)の詩による歌曲集より

 

 

ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフ (1788−1857年・ドイツの詩人)WikiCommons
ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフ (1788−1857年・ドイツの詩人)WikiCommons

 21,魔法の夜

 

 

「森の泉。遠くから谷間や草花の間をへて森の湖と流れを注ぐ。ひそやかなせせらぎの音に耳を傾けていると、花の香りがしてきて、夢見心地にさえなってくる。

 

夜のとばりは実に神秘的で美しい。美しい谷間で、夜啼きうぐいす(ナイチンゲール)がうたっている。きみが何度も夢見ていたように」と恋に傷ついたなげきをうたいます。

 

 

22,ロマの娘

 

「星と夜のかがり火が消えかかり、犬の遠吠えが聴こえる、真夜中からもう夜明けに近い頃、野性味あふれる豪放磊落なロマの娘と、若い猟師の会話。猟師は、雑木林で獲物に一発くらわすが、獲物に逃げられてしまう。残念と猟師はくやしそう。でもわたしだって捕まえられないんだから。わたしのいい人は、ハンガリー風のちょびひげをはやして、日焼けした人でないといや」とうたいます。

 

ザルツブルク・モーツァルテウム大ホール。1918年竣工で客席数800。  夏のザルツブルク音楽祭では、主にモーツァルトの室内オーケストラや室内楽の  演奏会の会場として現在も使われている。1953年8月12日シュヴァルツコップ  フルトヴェングラーによりヴォルフ歌曲の演奏会もここで開かれた。WikiCommons
ザルツブルク・モーツァルテウム大ホール。1918年竣工で客席数800。 夏のザルツブルク音楽祭では、主にモーツァルトの室内オーケストラや室内楽の 演奏会の会場として現在も使われている。1953年8月12日シュヴァルツコップ フルトヴェングラーによりヴォルフ歌曲の演奏会もここで開かれた。WikiCommons

 

ところが、冒頭でご紹介した英EMIのプロデューサー、ウォルター・レッグは、なんと当日、ザルツブルクのリサイタル会場にはいませんでした。いったいどうしたのでしょう?

 

ちょうど、当日、ミラノ・スカラ座にて、イタリアの大指揮者ビットリオ・デ・サバタのプッチーニの『トスカ』の録音をしに行っていたのです。歌姫はマリア・カラスでした。

 

そこで、妻となるシュヴァルツコップが、将来の夫のために、このヴォルフの歌曲集のリサイタルを英EMIのスタッフに録音することをお願いしていたのです。ウォルター・レッグとエリーザベト・シュヴァルツコップが正式に夫婦となったのは、この年1953年の10月のことでした。

 

フルトヴェングラーはごく若いときの1回を除いて、歌曲の伴奏を行ったのは、68年の生涯で、あとにも先にも本『ヴォルフ 歌曲集』だけだったのです。

 

この録音がのちのち、存命だったフルトヴェングラー夫人の許可がでて、1968年になってLP化されました。そのLPでは、全部で22曲のうちの、13曲が曲順と共に、ウォルター・レッグによって演奏された曲目がチョイスされました。それが、2011年になって、フルトヴェングラー生誕125周年のときに、はじめて、リサイタル全22曲がリリースされたのでした。

 

1974年11月から12月にかけて、シュヴァルツコップは「さよなら公演」のために来日し、日本での最後の最後の公演は、12月10日の東京・新宿にあった東京厚生年金会館大ホールでの公演でした。その後も、シュヴァルツコップは1977年アムステルダムなど、世界各地でさよなら公演をつづけ、最後の最後の公演は、1979年3月19日スイス・チューリッヒでの公演でした。

 

同年3月に夫のウォルター・レッグは心臓発作で倒れましたが、医師の忠告も聞かず、「どうしても、妻シュヴァルツコップのさよなら公演を聴く」といってチューリッヒに向かいました。夫レッグは、妻の「さよなら公演」を聴くことができました。気品のある声と情熱を兼ね備えた妻の最後の公演を聞き届けて3日後、レッグが73歳でこの世を去りました。1979年3月22日のことでした。

 

(歌劇『トスカ』はすごい歌手を揃えた録音でした。マリア・カラス(トスカ)、ジュゼッペ・ディ・ステーファノ(カヴァラドッシ)、ティト・ゴッビ(スカルピア)ヴィクトル・デ・サーバタ指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団)

 

1953年8月、ミラノ・スカラ座での歌劇『トスカ』の話は次の機会ということに。

 

文:野村和寿

 

次の記事

 

マリア・カラストスカが一体になる瞬間心が震える

 

 1⃣ 2⃣ 3⃣ 

好評公開中

第1回
第1回
第2回
第2回
第3回
第3回
第4回
第4回
第5回
第5回
第6回
第6回
第7回
第7回
第8回
第8回
第9回
第9回
第10回
第10回
第11回
第11回
第12回
第12回
第13回
第13回
第14回
第14回
第15回
第15回
第16回
第16回
第17回
第17回
「MQAで聴く女性ボーカル」
「MQAで聴く女性ボーカル」


参考資料

 

『レッグ&シュヴァルツコップ回想録 レコードのうら・おもて』エリーザベト・シュヴァルツコップ著

河村錠一郎訳 (1998年・音楽之友社刊)絶版

『名曲の楽しみ、吉田秀和』 第2巻 指揮者を語る 吉田秀和著 (2013年学研刊)

『伝説の蓄音機』ローランド・ジェラット著(1966年改訂版ニューヨーク刊)

 

 

 ヴォルフ 歌曲集 1953年ザルツブルク・ライブ)

 Hugo Wolf Recital - Salzburg, 12/08/1953

 

エリーザベト・シュヴァルツコップ(ソプラノ)

ウィルヘルム・フルトヴェングラー(ピアノ)

ワーナークラシック・ジャパン

ハイレゾ提供 e-onkyo music

http://www.e-onkyo.com/music/album/wnr190295489823/

ファイル形式 MQA Studio 96kHz/24bit

1,991円(税込価格)

2015年 96kHz/24bitリマスター音源より、最新MQAエンコード

実際の販売価格は変動することがあります。価格は税込価格(消費税10%)です。


収録曲

 

メーリケ歌曲集 

 1,  春に 0:06:10

 2,  妖精の歌 0:01:52

 3,  さようなら 0:02:15

 4,  眠る幼児 0:03:55

   

ゲーテ歌曲集より  

 5,  自然の現象 0:02:10

 6,  お澄まし娘  0:02:10

 7,  恋に目覚めた女 0:03:02

 8,  アナクレオンの墓 0:03:02

 9,  花の挨拶 0:01:36

10,エピファニアス祭 0:04:41

   

イタリア歌曲集  

11, 待ち望む 0:02:16

12, 怒り 0:02:02

13,お若い方 0:01:03

14,恋人 0:01:13

   

スペイン歌曲集   

15,花でつつんで 0:03:13

16, 主よ、この地に 0:02:57

17, 髪のかげで 0:02:30

18, 口さのない人 0:02:06

   

ゴットフリート・ケラーの6つの詩による

19, 明るい月 0:03:44

 

 ロベルト・ライニック 詩 女声のための6つの歌より

20, 夏の子守歌 0:03:58

 

ヨーゼフ・フライヘル・フォン・アイヒェンドルフの詩による歌曲集より

21, 魔法の夜 0:05:30

22, ロマの娘 0:03:30

 


 

執筆者紹介

雑誌編集者を長くつとめ、1975年にカール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団日本公演のブラームス交響曲第1番の最終楽章で、鳥肌が立ち、帰り道をさまよった経験を持つ。爾来、クラシックを生涯の友として過ごしてきた。編集者時代、クラシック以外のロックやジャズといったジャンルのアーティストと交流を深めるうちに、クラシックと、楽しさにおいて何も変わらないことに確信を持つ。以来、ジャンルを取り払ってハイレゾまで、未知なる音の発見の喜びを日々捜している。MQAを提唱しているイギリス・メリディアンには1991年以来2回オーディオ雑誌の取材で訪れ、基本コンセプトに魅せられた。またカメラ好きでもあり、特にドイツの光学製品に魅せられ、ライカのカメラ群とそのレンズの蒐集に執念を燃やしている。



関連記事 MQAで聴くクラシックの名盤


 『スーベニール(思い出)パート1』 トロンハイム・ソロイスツ

 

 

 

ベートーヴェン 交響曲全集

ダニエル・バレンボイム指揮

ベルリン・シュターツカペレ

 

 

ブラームス交響曲全集

 サー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

 

 

フルトヴェングラーの「第九」

ベートーヴェン:交響曲第九番 作品125「合唱」フルトヴェングラー指揮 バイロイト祝祭管弦楽団

 

ヴェルディ:歌劇『リゴレット』全曲 マリア・カラス

『カラヤン ザ・ベスト・オブ・マエストロ』 フィルハーモニア管弦楽団、ベルリン・フィル/ハーモニー管弦楽団、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

シューベルト『未完成』ドヴォルザーク『新世界』より セルジュ・チェリビダッケ指揮 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

 

 

カラヤン!カラヤン!カラヤン!

カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 フィルハーモニア管弦楽団

 

マーラー交響曲第5番

ショルティ指揮

シカゴ交響楽団

 

 

モーツァルト・アリア集~ウェーバー三姉妹/サビーヌ・ドゥヴィエル

『ザ・ニュー・サウンド・オブ・マリア・カラス』マリア・カラス他                

 

 

 

マルタ・アルゲリッチ&フレンズ ライブ アット 

ルガーノ・フェスティバル2013

 

 

メンデルスゾーン 交響曲第4番「イタリア」

クリスティアン・ティーレマン指揮 ミュンヘン・フィル管弦楽団

ヴォルフ 歌曲集

エリーザベト・シュヴァルツコップ(ソプラノ)ウィルヘルム・フルトヴェングラー(ピアノ)

 

 

ホルスト 組曲『惑星』作品32 サー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

 

ハイドン 交響曲第88番『V字』から第92番『オックスフォード』他、サー・サイモン・ラトル指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

 

『R.シュトラウス 交響詩《ツァラトゥストラはかく語りき》他』

カラヤン指揮 ウィーンフィルハーモニー交響楽団

 

プッチーニ

歌劇『トスカ』全3幕

マリア・カラス他