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録音会場になった貴族たちの舞踏会場ゾフィエンザール

 

録音会場に白羽の矢がたったのはウィーンにある昔の貴族たちの舞踏会場だったゾフィエンザール。ウィーンの音楽会場といえば、黄金のホールといわれるウィーン楽友教会大ホール(ムジークフェライン)が有名だが、常に使われていて、じっくりと時間をかけた録音には向かなかった。ウィーン・フィルの仕事場であるオペラ座にも近いこともあり、また、観客が入る訳でもない録音専用のゾフィエンザールは、録音にはもってこいで、常にマイクをセッティングしておくこともできた。本作は1959年3月9日と10日に、録音されている。

 

しかし解決すべき問題がいくつもあった。ゾフィエンザールはもともと、音楽会場でなかったので、本曲に登場するパイプオルガンが設置されていなかった。そこで、英DECCAのプロデューサー ジョン・カルショーは、オーストリア軍に属する教会を、ウィーン郊外ノイシュタットでみつけ、パイプオルガンを別に録音したことがわかっている。カルショーによると、軍の教会の音響は抜群であったが、パイプオルガンが、音程が低すぎて、オーケストラとの間で、ピッチ(調)のずれが生じていた。そこで、オルガンの調律師に頼んで軍には内緒で、一番大きなパイプを、ひそかに削って、ピッチを合わせたことを告白している。

 

『レコードはまっすぐに』ジョン・カルショー著 山崎浩太郎訳 2005年学研刊によると、「(録音に使用した軍用の教会のオルガンは)オルガンのピッチ(調)が低すぎることが判明した。(同281ページ)とあり、また、今回のMQA-CDの解説(デイヴィッド・グーマン 訳:中村靖 1999年)には、録音に使用したパイプオルガンのことを「甲高い音のする楽器」と書いている。つまり、この解説では「そのオルガンのピッチは高かった」と読める。パイプオルガンのピッチがオーケストラよりも低かったのか。それとも、オルガンのピッチがオーケストラのピッチよりも高かったのか?いずれにしても、オーケストラとオルガンのピッチが異なっていて、調整が必要であったことだけは確かなようである。

 

さらには、1959年には、オーケストラと、パイプオルガンとを、別々に録音ができるマルチトラック録音機がまだ開発されていなかったので、これは推測であるが、パイプオルガン奏者は、一度録音したオーケストラの音を聴きながらオーケストラの進行に合わせて、パイプオルガンのパートを弾き、それを録音したことが考えられる。ちなみに、パイプオルガン奏者には、録音スタッフのひとりで、後に名プロデューサーとしても活躍したカルショーの助手レイ・ミンシャルがあたっているとのことである。たった2分間に満たないパイプオルガンの録音に6時間かかったとのことである。

 

さらに、本曲の最終部分付近には、教会の鐘が登場する。これは、ウィーンにある教会の鐘を探してきて、録音会場であるゾフィエンザールに設置したということである。

 

カラヤンによるオーケストラ演奏を、演奏会ではない、あくまでも録音物を最上とする芸術作品に仕上げるというまったく、それまでにない録音の結果が本作品なのである。

ウィーンのオペラ座でみせる流麗でメロディアスな音の歌い方こそは、ウィーン・フィルならではの特徴であり、それがカラヤンの指揮棒によって、録音芸術作品へと昇華したのであった。

 

 

R.シュトラウスも指揮者として活躍し、またR.シュトラウスのオペラも上演されたウィーン国立歌劇場(オペラ座)、  演奏のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団はこのウィーン国立歌劇場管弦楽団のピックアップメンバーからなる。  また指揮者カラヤンは、録音当時、ウィーン国立歌劇場の音楽総監督だった。
R.シュトラウスも指揮者として活躍し、またR.シュトラウスのオペラも上演されたウィーン国立歌劇場(オペラ座)、 演奏のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団はこのウィーン国立歌劇場管弦楽団のピックアップメンバーからなる。 また指揮者カラヤンは、録音当時、ウィーン国立歌劇場の音楽総監督だった。

 

このように、ニーチェの著作『ツァラトゥストラはかく語りき』は、R.シュトラウスの交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』を作らせた。有名となったトラック1の「序奏」のトランペットのファンファーレは、形を変えつつ、トラック3,トラック6、7の途中で3度ほど再登場する。

 

この再登場はニーチェの唱えている「人生は再び繰り返す」という「永劫回帰」の思想をR.シュトラウス流に音楽で表しているような気がしてならない。このことはまた、スタンリー・キューブリックの映画『2001年宇宙の旅』にもいえるようだ。映画の結末でも、ボーマン船長の生まれ変わりとしてスターチャイルド(赤ん坊)が登場するシーンにおいても、「永劫回帰」の思想が見え隠れしていると私は思った。

 

そして、2018MQA-CDの記念すべきハイレゾCD第1作として登場することになった。ハイレゾでさらに細部まで聴こえてくる本曲は、今まで聴いてきた中で最高の『ツァラトゥストラ』だったと思えてきた。

 

 

文:野村和寿

 

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 「第九で千変万化するテンポに酔い「歓喜」へ

 

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参考文献

『ツァラトストラかく語りき』(上・下巻)ニーチェ著/竹山道雄訳 1953年新潮文庫刊

『ニーチェ ツァラトゥストラの謎』村井則夫著 2008年中公新書刊

『クラシックレコードの百年史』ノーマン・レブレヒト著/猪上杉子訳 2014年春秋社刊

『レコードはまっすぐに あるプロデューサーの回想』ジョン・カルショー著/山崎浩太郎訳 2005年学研刊

 

『ツァラトゥストラかく語りき(上・下巻)』

 

ニーチェ著/竹山道雄訳 初版は1941

昭和16年(太平洋戦争開戦の時)年に刊行。

ドイツ文学者・竹山道雄(1903-1984年『ビルマの竪琴』の作者として有名)の名訳として知られる。1953年改版され新潮文庫に所収。現在も版を重ねている。

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『R.シュトラウス 交響詩《ツァラトゥストラはかく語りき》他』

 

 トラック1−トラック9 交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』作品30

 

・トラック1, 「序章」  1:45

・トラック2,「後の世の人々について」  3:35

・トラック3, 「大いなる憧憬について」  1:56 

・トラック4, 「歓喜と情熱について」1:54

・トラック5,「埋葬の歌」2:23 

・トラック6,「科学について」4:18 

・トラック7,「病より癒え行く者」5:10 

・トラック8,「舞踏の歌」7:41 

・トラック9,「夜とさすらいの歌」4:43 

・トラック10 ,R.シュトラウス 交響詩『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』作品28 15:04 

・トラック11, R.シュトラウス 楽劇『サロメ』から7つのヴェールの踊り 作品54  9:14

・トラック12, R.シュトラウス 交響詩『ドン・ファン』作品20  17:06

 

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ウィフィルハモニー管弦楽団

 


ハイレゾCD名盤シリーズ

MQA-CD 352.8kHz 24bit  

2004年 DSDリマスターよりMQAエンコード

3,000円 +税

ユニバーサルミュージック

 https://www.universal-music.co.jp/herbert-von-karajan/products/uccd-40002/

 

録音日

トラック1−9   1959年3月9−10

トラック10、12 1960年6月22−30

トラック11    1960年9月

 

 


R.シュトラウス『ツァラトゥストラはかく語りき』冒頭の「序奏」のオーケストラ・スコア(部分)。上からトランペット、トロンボーン、ティンパニ、大太鼓、シンバル、パイプオルガン 宇宙の夜明けを感じさせる。(International Music Score Library Project より)
R.シュトラウス『ツァラトゥストラはかく語りき』冒頭の「序奏」のオーケストラ・スコア(部分)。上からトランペット、トロンボーン、ティンパニ、大太鼓、シンバル、パイプオルガン 宇宙の夜明けを感じさせる。(International Music Score Library Project より)

 

執筆者紹介

雑誌編集者を長くつとめ、1975年にカール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団日本公演のブラームス交響曲第1番の最終楽章で、鳥肌が立ち、帰り道をさまよった経験を持つ。爾来、クラシックを生涯の友として過ごしてきた。編集者時代、クラシック以外のロックやジャズといったジャンルのアーティストと交流を深めるうちに、クラシックと、楽しさにおいて何も変わらないことに確信を持つ。以来、ジャンルを取り払ってハイレゾまで、未知なる音の発見の喜びを日々捜している。MQAを提唱しているイギリス・メリディアンには1991年以来2回オーディオ雑誌の取材で訪れ、基本コンセプトに魅せられた。またカメラ好きでもあり、特にドイツの光学製品に魅せられ、ライカのカメラ群とそのレンズの蒐集に執念を燃やしている。

 


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