1⃣ 2⃣ 

〈曲目解説〉

 

1,モーツァルト 交響曲第29番 イ長調 K(ケッヘル).201から

第1楽章 アレグロ・モデラート(快速に、中くらいの速さで) 

 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1960年2月29日から3月1日 ベルリン・グリューネヴァルト教会で録音 0:07:13

 

カラヤンでこの曲を最初に聴いたときの、なにかドアを開け放ったような開放感と、快速で一気に駆け抜けていく疾走感は、今も忘れられない。何度も同じ旋律(フレーズ)が繰り返し登場するので、いつまでも耳に残るようになる。この演奏ではカラヤン=ベルリン・フィルは少し遠目から聴こえてくる。オケとの距離感。これは当時録音にあたったEMIのクルーのトーン・キャラクターだ。

 

2,ヘンデル 『水上の音楽』より 第2曲「エア」 

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1959年7月30から31日 ベルリン・グリューネヴァルト教会で録音 0:05:20

 

この曲でも、広々とした教会の中から、柔らかいヘンデルが流れてくる。モーツァルトは、ヘンデルを師匠と慕い、旅行先にまで楽譜を手放さなかったという。この淡々とした歩の進め方に身を任せるときに、感じられる安心感が伝わってくるような音楽である。まるで、何艘もの小舟に奏者がいて、川縁にいる貴族たちに向かって音楽を奏でているような、昔のセレブリティにでもなったような優雅な心持ちにさせてくれる。

 

 

3,ワルトトイフェル 『スケートをする人々(スケーターズ・ワルツ)』作品183 

フィルハーモニア管弦楽団 

1960年9月21日 ロンドン・キングスウェイホール 0:07:36 

 

氷の上を滑るようななめらかさや、軽々とスピンをするときの華やかな動きを音楽にしたもので、文字通り、以前はよくスケートリンクの音楽として、かかっていた。冒頭。当時の名手で首席奏者だったアラン・シビルが吹くホルンが響き渡るところ。さらにバイオリンとチェロによって奏される優雅さ、演奏の高まりとともにスケーターがスピンする様子が見えてくるかのよう。弦楽器による伸びやかさや、愛らしい感じが楽しみだ。

 

*3曲め、5曲め、10曲めは、プロデューサー ウォルター・レッグが録音のためだけに結成したロンドンのフィルハーモニア管弦楽団による演奏である。

 

ベルリン郊外の豊かな森から望む現在のベルリン市内の夜景
ベルリン郊外の豊かな森から望む現在のベルリン市内の夜景

 

 

4,チャイコフスキー交響曲第4番 ヘ短調 作品36より

第3楽章スケルツォ ピチカート・オスティナート・アレグロ

(何度も繰り返し演奏される、軽やかでユーモアのあるテンポの速い曲)

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1960年2月29日から3月1日 ベルリン・グリューネヴァルト教会で録音 0:05:43

 

 

一聴として、ギター・オーケストラのような弦をつまびく音の群れのように聴こえる。なぜかといえば、弦楽器群に、通常の弓で弾くというアルコと呼ぶ奏法でなく、弓を使わず、弦を手ではじいて音を出すというピチカートと呼ぶ奏法で作曲されている楽章である。弾みのある気持ちよさが心を軽くしてくれる。

 

5,プッチーニ 歌劇『マノン・レスコー』より第3幕の間奏曲

フィルハーモニア管弦楽団 

1959年1月3日 ロンドン・キングスウェイホールで録音 0:05:16

 

 プッチーニの中でもっともプッチーニらしい曲ともいえる。何しろ、本作のオペラのストーリーは主人公たちの愛の逃避行を、パリ、そして最後には新天地アメリカ・バージニアへと展開する。幕間でさらにオペラを盛り上げるために演奏されるので、激しい愛の葛藤を描いている。最初のチェロが奏でるせつなさが耳を捕らえて放さない。

 

 

6,スメタナ 交響詩『わが祖国』より第2曲『モルダウ』

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1957年11月、1958年1月,5月 ベルリン・グリューネヴァルト教会で録音 0:12:13

 

もともと本曲は、スメタナが、祖国チェコの森や川を描いた『わが祖国』の第2曲で、ドイツ名・モルダウ(チェコ名・ヴァルタヴァ川)を源流から大河になるさまを描いている。農民の婚礼や、月光のもとで水の妖精たちの踊り、急流の渦となるさま、雄大な大河と、次々に、川の表情が変わっていく姿が楽しめる。

 

フルートが、弦楽器が、モルダウの流れを表現する中、そこに優雅で印象深いバイオリンのモルダウのメロディーが始まる。森やお城はホルンをはじめとする金管楽器が担当と、楽器のそれぞれに役割分担をはっきりと分担させることで、よりわかりやすいメロディーとなっていて、スメタナの故国チェコを誇る音楽となっている。 

 

 

7,メンデルスゾーン 序曲『フィンガルの洞窟』作品26

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1960年9月16から19日 ベルリン・グリューネヴァルト教会で録音 0:10:16

 

メンデルスゾーンが作曲した演奏会用序曲で、スコットランドにあるスタッファ諸島にあるフィンガルの洞窟という秘境の探検を音楽にしている。眼前に展開する不思議な岩の景観、ときに激しく、ときに優雅にイギリスの画家ターナー(1775−1851年)の絵画の大気と光、雲のようすを少し黄色みがかったように、ロマン的な音楽としてあくまでも、優雅に美しくきめ細かく描いて見せている。

 

スコットランド スタッファ諸島
スコットランド スタッファ諸島

 

8,ワーグナー 楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』より第1幕への前奏曲 

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1957年2月18から19日 ベルリン・グリューネヴァルト教会で録音 0:09:44

 

最初の音に是非注目してほしい。一聴して、豪華な大広間に経ったような誇らしい気持ちを聴き手に抱かせてくれる演奏である。そのゴージャズで豪放な調べこそカラヤンの真骨頂である。この楽劇を全部聴くと優に4時間以上かかる大曲だが、入学式や卒業式といった祝典に、この前奏曲だけでよく演奏される。約10分間のコンパクトな中に、楽劇の有名なメロディーが余すところなく登場してうれしい。

 

9,ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 作品18より

第1楽章 モデラート(中くらいの速さで) 

アレクシス・ワイセンベルク(ピアノ独奏)

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 

1972年9月 ベルリン・イエス・キリスト教会で録音 

2011年リマスター版 0:11:58

 

ピアニスト・アレクシス・ワイセンベルク(1929〜2012年)の強靱なピアノの打鍵が、カラヤン=ベルリン・フィルと真っ向から渡り合い、やがて大きく協調し展開していく演奏である。2014年冬季五輪ソチ大会、女子フリー・スケーティング。浅田真央選手が、本曲で凄い演技を繰り広げられた時に、音楽として取り上げたのが本曲。

 

ロシア正教の教会から鳴り渡る鐘の音を模したピアノの、静かだが決然とした強い打鍵。ロシアの大河のようなメロディーが始まる。まさにロシアの悠久の大地に、しっかりと歩を進めるようで素晴らしい。愛らしく哀愁をおびたコンチェルト全体から、難関に立ち向かう勇気と、克服しようと思う力をもらえるような曲である。

 

本曲のみ1972年の頃の録音。録音会場は、1970年代によくカラヤンが録音会場に使っていたイエス・キリスト教会。ここもグリューネヴァルト教会と同様に、響きが美しく、なんども録音に使われている。しかしベルリンのテンペルホーフ空港にほど近い場所になり、旅客機の発着のときに、録音を中断しなければならなかった。

 

ベルリン イエス・キリスト教会 I,Berkan Wikimedia Commons
ベルリン イエス・キリスト教会 I,Berkan Wikimedia Commons

 

10,モーツァルト 『アヴェ・ヴェルム・コルプス』K(ケッヘル).618

フィルハーモニア管弦楽団 ウィーン楽友協会合唱団 1955年7月28日 

ウィーン楽友協会大ホールで録音(このトラックのみモノラル録音)0:04:06

 

カラヤンは、1955年にフィルハーモニア管弦楽団をわざわざ、ウィーンに呼び寄せて、ベートーヴェンの第9交響曲を録音した。同じ録音セッションのなかで、録音されている。わずか4分強の佳曲。モーツァルトの死の年、最後期に作曲されたカトリックで歌われる賛美歌で、この上のない美しさである。いろいろな曲を何度も録音したカラヤンだが、この曲だけは、たった一度、本トラックだけが残されている。このトラックのみモノラル録音。

 

 

本アルバムはトラック9(2011年修復)を除いて、カラヤン没後25周年を記念した2014年、ロンドンのアビィ・ロード・スタジオでハイレゾ化したものである。旧EMIの倉庫に保管されているアナログ・テープのなかでも録音状態のよいテープを探し出し、録音当時のプロデューサーの記録ファイルをひとつひとつ参照しながら時間をたっぷりかけて修復して、96kHz 24bitのハイレゾにリマスタリングしたものである。

 

文:野村和寿

 

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カラヤン!カラヤン!カラヤン!~ハイレゾ・ベスト

Selected by 名曲喫茶 月草~

 

レーベル名 ワーナー・クラシックス

レコード会社 ワーナー・ミュージック・ジャパン

ハイレゾ提供 e-onkyo music

http://www.e-onkyo.com/music/album/wnr825646154357/

ファイル形式 MQA Studio 96kHz/24bit 

¥1,234 (税抜価格)現在配信されておりません。

 

◎実際の販売価格は変動することがあります。


執筆者紹介

雑誌編集者を長くつとめ、1975年にカール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団日本公演のブラームス交響曲第1番の最終楽章で、鳥肌が立ち、帰り道をさまよった経験を持つ。爾来、クラシックを生涯の友として過ごしてきた。編集者時代、クラシック以外のロックやジャズといったジャンルのアーティストと交流を深めるうちに、クラシックと、楽しさにおいて何も変わらないことに確信を持つ。以来、ジャンルを取り払ってハイレゾまで、未知なる音の発見の喜びを日々捜している。MQAを提唱しているイギリス・メリディアンには1991年以来2回オーディオ雑誌の取材で訪れ、基本コンセプトに魅せられた。またカメラ好きでもあり、特にドイツの光学製品に魅せられ、ライカのカメラ群とそのレンズの蒐集に執念を燃やしている。


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