メリディアンだからこそできた、理想のヘッドフォン・アンプ


岩井  喬

共同創業者アラン・ブースロイドによるクオリティ感あふれるデザイン。
共同創業者アラン・ブースロイドによるクオリティ感あふれるデザイン。

 ■外観からは計り知れない、内に秘めた能力の高さを思わせる絶妙なデザイン

 Prime Headphone Amplifier(プライム・ヘッドフォンアンプ 以下、Prime)はメリディアンの上位コンポーネントであるGシリーズの意匠をCDジャケットほどの面積のサイズへとコンパクトにまとめており、Explorerとも似たかわいらしさを感じさせる一方で、外観からは計り知れない内に秘めた能力の高さをも思わせる絶妙なデザインとなっている。

 

 それは留めネジが背面パネル以外には存在しない流麗なフォルムであることともつながるが、実際に手に取ると見かけ以上に重い。ふんだんにアルミ材を用いた堅牢な二重のボディ構造によるところが大きいが、この小さなボディの中にはフラッグシップである800シリーズの流れを汲む設計思想や高音質パーツ群が取り入れられた。

 

 ジッターを低減する非同期のアシンクロナスモード192kHz/24bit入力対応DACを内蔵し、クロックも44.1kHz系と48kHz系の2基を搭載。省スペースとショートシグナルパスを実現する6層基板を採用し、デジタル/アナログ回路も分離した合理的な設計が取り入れられている。

 

 アナログ部では本体サイズの割に大きなボリュームもアルプス製の上位グレードを採用。入出力端子が集中する、音質上最適と思われる奥まったポイントに基板実装されているため、フロントパネルからシャフトを伸ばしてボリューム軸と繋ぐなど、とことんサウンドを突き詰めた構造を取り入れている。

 

 ヘッドホンアンプ部は16Ω~1kΩまでのインピーダンスに対応できるといい、DC結合を用いて優れた位相コントロールと低周波領域の再現性を実現。プリアンプ部をシャットアウトするヘッドフォン・アンプモードも備えるほか、二つの標準ジャック出力を左右独立して使用できるデュアルモノ仕様にも対応しており、よりクロストークの少ないクリアでパワフルなサウンド再生を可能としている。またミニプラグ端子もあるため変換プラグを使うことなく高品位な音質が得られるのも好ましい配慮と言えるだろう。


■頭内定位をナチュラルに補正するASP機能やハイエンドモデルで開発された、アポダイジング・ 

 フィルターなど独自技術がヘッドフォン持っている潜在能力を最大限に引き出す

 

 Primeの機能そのものについては、極めてシンプルで昨今の豊富なUSB-DAC群の中では控えめに映るかもしれない。しかしメリディアンならではの強みを発揮しているのは内蔵DSPによるデジタル領域の制御アルゴリズムや、アナログ段に設けられたヘッドフォン・リスニングでスピーカー再生のような空間表現を実現する“ASP”(アナログ空間プロセッシング)の採用である。

 

 このASPは2段階のモードが選択できるが、いずれも左右に広がる定位を収束させ、奥行き感を強めることで、より立体的で自然なセンター定位を際立たせるようなサウンドを得ることができた。なお、今回のレビューでは純粋な駆動能力を見るため、ASPはOFF状態で確認を行った。

 

 本機ならではの魅力が凝縮されているDSP技術の一つが独自のアポダイジングフィルターであり、プリリンギングを除去する機能を持たせている。CDリッピング音源や過去のデジタル音源などを含め、録音時に記録されてしまっているプリリンギングノイズ(音の立ち上がりに付帯するノイズ成分)についても、除去することができるという。

 

 加えて、メリディアンが提唱する新たなハイレゾ向け可逆圧縮技術“MQA”にも対応したハードウェアという点でも注目に値する。また、アナログ入力とプリアウトが備わっており、USB・DAC搭載のプリアンプとして本格的なオーディオ・システムに接続しても十分なクオリティを持っていることも付け加えておきたい。

 

 

 さらに、Primeにはオプションとして外部電源ユニットPrime Power Supply(以下、パワーサプライ)が用意されており、近々国内投入される見込みだ。Primeと同じ意匠、同じサイズの筺体となっていて、2台そろえた風貌はコンパクトながらもどっしりと構えた、頼りがいのある印象を受けた。

 

 これは、800シリーズ用に開発された新たなリニア電源思想をベースに開発されたそうで、万全なシールドが施されたトロイダルコアトランスを搭載。2段構成の低ノイズ・リニア・レギュレーターやノイズフィルタリングの役割も担うニチコン製オーディオグレード・コンデンサーも取り入れるなど、セパレート電源として理想とも言える非常に強力で安定した環境を提供してくれる。

 

 今回の試聴では最後にPPSを加えた環境でのレポートもお届けしたいと思う。試聴に際してはハイエンドモデルを中心に複数の人気ヘッドフォンを用意した。

 

■まずは、シュアーSRH1840のニュートラルな持ち味を存分に味わう

 まずはメリディアンのExplorerの試聴レビューでも用いたシュアSRH1840を使い、ExplorerとPrimeヘッドフォン・アンプとの音質の違いを含め、基本的なサウンドについてをまとめてみたい。Primeはゲイン調整機能を備えていないので、音量調整はボリュームのみのシンプルな操作となる。 

 

 SRH1840の持ち味であるニュートラルな音質傾向を程よく肉付けした耳当たり良いサウンドで、高低両翼にすっきりと伸びたレンジの広い特性を得ることができた。低域は弾力を残した引き締まり感を伴う描写であり、ウッドベースやドラムの胴鳴りも輪郭感を適度に聴かせ、余韻を丁寧にまとめる。女性ヴォーカルはしっとりとして、瑞々しい口元のタッチをクリアに描く。S/N感も高く、オーケストラのハーモニーは澄んだ響きをたたえる。

 

 ハイレゾ音源になると抑揚豊かで階調性も細やかになり、より音場の静寂感も増すようだ。低域のダンピングも高まり、音像の輪郭を鮮明に描き出す。高域の華やかな倍音の描写も丁寧にまとめていることもあり、品位の高い音色となっている。楽器の前後感も鮮明で、透明感の高いサウンドだ。 ExplorerでもPrimeと同じベクトルの品性の良いサウンドを楽しめるが、比較すると音像の輪郭が柔らかく、フォーカスがやや甘くなる印象である。これは電源部の余裕度に起因するところも多いにあると思われるが、適度な耳当たりの良さにはつながっているようだ。

 

 やはりアタックのキレや音像の厚みと輪郭の明確さという点ではPHA-1が圧倒的に有利であり、音場の空気感のリアリティにも大きな差が生まれている。Explorerでメリディアンのサウンドに魅力を感じたというリスナーであれば、そのサウンドのグレードアップをPrimeが実現してくれるだろう。

 


フォステクスTH900 密閉型ならではの音像の高い密度感が味わえる。

 続いて用意したのは密閉型のハイエンド機であるフォステクスTH900だ。水目桜を用いたウッドハウジングに色銀箔と漆を重ねた深みのある仕上げが特徴のTH900は、密閉型ならではの音像の高い密度感と低域のパワー感、アタックの力強さとともに、オープン型を彷彿とさせる爽やかで広がりある空間表現を同時に味わえる。ピアノやギターのプレイニュアンスも細やかに拾い上げ、高域のハーモニクスもすっきりと伸びやかに捉えてくれた。

 

 ベースやキックドラムの響きは豊かで、アタックの太さが際立つ。ヴォーカルもボディの厚みを持たせながら、口元のエッジを艶良く流麗に描き、ヌケ良く華やかにまとめ上げる。ロックのスネアドラムやシンバルのトーンは硬めの響きとなるが、音像の輪郭のカチッとしたエッジもきちんと浮き上がらせるので、リズム隊のキレもよりリアルに表現。オーケストラのハーモニーは管弦楽器のハリ良くまろやかな旋律とローエンドのどっしりとした響きをバランス良く融合。中域エナジーの豊かさも特徴だ。

 

 ハイレゾ音源では音像の引き締め効果が高まり、ギターや女性ヴォーカルの質感の滑らかさや倍音成分の豊かさを感じさせる、余韻の分解能の高さが際立つ。音像の芯は適度に太く、密度の高さと流麗なディティールのタッチを両立させるリッチなサウンド傾向といえるだろう。


ベイヤーダイナミック T1 600Ωのフラッグシップ・モデル

 パワフルできめ細かなサウンドでしっかり駆動する

 ベイヤーダイナミックのフラッグシップ機T1は、インピーダンス600Ωという鳴らしにくいモデルの筆頭である。もちろん、ボリューム位置はかなり高まるものの、Primeの駆動能力に不足はなく、非常にパワフルできめ細やかさも兼ね備えたサウンドだ。エナジーバランスを高域にシフトした傾向で、オーケストラの管弦楽器やピアノの響きがより硬質なものとなり、倍音成分もブライトに輝く。ウッドベースやキックドラムはアタック感を中心にした描写となり、ソリッドなリズム隊を形成する。

 

 ヴォーカルもスマートな音像で、口元の描写もハリ艶良くクールに際立つ。リリースの収束も早く、キレ味良く華やかな拡散を見せる余韻の清々しさが持ち味ともいえよう。定位感もシャープでロックのスネアのアタックも切れ味鋭い。タイトでシャープなサウンドのため、スピードの速い楽曲との相性も良いだろう。

 

 ハイレゾ音源では音像のフォーカスがさらに高まり、各パートのプレイニュアンスを細やかにトレースしてくれる。女性ヴォーカルはソリッドかつクールな描写となり、清廉性の高い凛々しい存在として浮き立つ。ピアノはクリスタル調のブライトな響きを持つが、余韻の伸びは純度が高く、にじみがない。音の繋がりもスムーズで非常に明晰なサウンドを味わうことができた


ゼンハイザーHD800 圧倒的な情報量の豊かさ、S/Nの高さが際立つ。

 シャープな音像定位も好印象

 そして最後に用意したのはリファレンスとしても活用している、オープン型のパイオニアであるゼンハイザーのフラッグシップ機、HD800である。基本的な傾向としてはT1にも似た、オープン型らしい爽快でヌケ良い空間の広さを感じさせるサウンドで、より音像のボトムの厚みが加わったという印象だ。ヴォーカルは程よい太さがあり、口元のハリも滑らかで安定度の高い描写である。オーケストラやピアノの高域タッチは澄み切っており、アタック&リリースもキレ良くレスポンスも早い。ローエンドの弾力も密度が伴っており、余韻の豊かさも感じることができる。

 

 音場は広大で、濁りのないホールトーンの清々しさ、ふくよかでスムーズなハーモニーの存在感を堪能できた。高域にかけての倍音表現は煌びやかさも感じるものの、解像度は高く、低域のスカッとヌケの良い描写とのバランスが見事だ。脚色は控えめで濃密だが自然な音像の佇まいを味わうことができる。

 

 ハイレゾ音源ではシャープさが増し、音像の表情も一際彫りが深い。ヴォーカルのボディはスマートに引き締まり、ロックのリズムもキレ鮮やかに立ち上がる。弦楽器の胴鳴りの豊かさと、弦のカラッと鮮やかにはじけるアタックの屈託のなさが印象的だ。情報量やS/Nの高さが際立ち、音像もシャープに定位する。


本体の下段が最高品位のカスタム・トロイダルトランスを搭載したPrime専用の電源ユニット。デバイスの潜在能力を最大限に引き出してくれた。
本体の下段が最高品位のカスタム・トロイダルトランスを搭載したPrime専用の電源ユニット。デバイスの潜在能力を最大限に引き出してくれた。

パワーサプライとのセット試聴で再認識したPCオーディオにおける電源の重要性

  ここでパワーサプライをPrimeに接続し、改めてHD800のサウンドを確認してみた。まず実感したのが中低域にかけての音の厚みが増すことである。ドラムやウッドベースの伸びやかさ、ナチュラルさもより良く表現できるようになり、高域まで伸びるホーンセクションの響きにも重心がかかり、音像のボディが安定するようになった。オーケストラのハーモニーに潤いも乗り、より有機的な旋律の響きを味わえる。ヴォーカルの肉付きも豊かになり、さらに自然で分離良い描写となった。

 

 さらにT1もパワーサプライありの状態で聴き直してみたが、こちらも同様に中低域の密度が増す傾向となる。中高域にかけての解像度、際立ちの高さを低域の太さをもって補うようになり、全体のサウンドバランスが格段に向上した。

 

 オーケストラの余韻の階調もきめ細やかで空間の密度感や演奏の躍動感さえ改善するような印象であった。解像度の高さやS/Nの良さもワンステップ上がる印象だが、この2モデルの試聴の印象から、電源を充実させると特にハイインピーダンス機における音像充実度の変化度はとても高いことがわかる。PCからパワーサプライを経由してUSBケーブルを接続することで、USBバスパワーのノイズを遮断し、クリーンな電源を供給できることも音質上の大きなメリットを生み出している。

 

 Prime単体でも非常に表現力の高い流麗なサウンドが楽しめるが、パワーサプライを加えることでより盤石なサウンドとなる。そこから聴こえてくる快活で奥行きのある音世界は、デジタルの分野で長らく独自技術を磨いてきたメリディアンの一つの理想郷が垣間見えるようであった。

 

2015 Takashi Iwai

■再生環境:Mac Book Pro+Audirvana Plus(Mac OS用 有償プレーヤーソフト)

■試聴ソフト紹介:CDリッピング44.1kHz/16bit、ハイレゾ音源96kHz/24bit、192kHz/24bit


【クラシック】・レヴァイン指揮/シカゴ交響楽団『惑星』~木星(CDリッピング:44.1kHz/16bit)・イ・ソリスティ・ディ・ペルージャ『ヴィヴァルディ:四季』~春(192kHz/24bit)・飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013『プロコフィエフ:古典交響曲』~第一楽章(96kHz/24bit)

 

【ジャズ】・オスカー・ピーターソン・トリオ『プリーズ・リクエスト』~ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー(CDリッピング:44.1kHz/16bit)・『Pure2-Ultimate Cool Japan Jazz-』~届かない恋、夢であるように(192kHz/24bit)※女性ヴォーカル

 

【ロック】・デイヴ・メニケッティ『メニケッティ』~メッシン・ウィズ・ミスター・ビッグ(CDリッピング:44.1kHz/16bit)

 

【ポップス】・シカゴ『17』~ワンス・イン・ア・ライフタイム(192kHz/24bit)・長谷川友二『音展2009・ライブレコーディング』~「ゲット・バック」(筆者自身によるDSD録音:SonicStageMasteringStudioにて192kHz/24bit変換)