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Copyright: Erio Piccagliani
マリア・カラスとディ・ステファノの録音風景 写真提供:ワーナークラシックス

▇最初の聴き所は父リゴレットと娘ジルダの生い立ちの二重唱!(トラック11)

 

娘ジルダは、父リゴレットがどんな仕事をしているか、つまり父は自分が道化をしているということも娘ジルダには知らせていません。そればかりか父であるリゴレットの名前さえも知らされておらず、さらに他界した自分の母親が、どんな人で、父と母はどこで出会ったのか、自分はどこで生まれたかなども、父リゴレットの口からは聞かされていませんでした。

 

マリア・カラスの演じる娘ジルダは、まず、父親リゴレットとのやりとり(第1幕トラック11)の2重唱が、まず、最初の聴き所です。父と娘それぞれの境遇を問答のような形式でお互いに問いつめていきます。ざっとこんな感じです。

 

 

リゴレット「沈んだ心もおまえのそばでは喜ばしくなる。おまえなしではこの世になんの宝ぞ」

 

ジルダ「おお、なんという愛情。この哀れな娘に話してちょうだい。秘密があっても…娘には打ち明けて 肉親ですもの 知らないでは。お名前も?」

 

リゴレット「聞いて何になる?」

 

ジルダ「おいやでしたら あなたのことでも」

 

リゴレット「(さえぎって)外へ出るなよ」

ジルダ「会堂(教会堂)にしか。」

 

ジルダ「あなたのこともいけないなら、せめてお母さまのお話でも……」

 

リゴレット「おお、みじめな人間にその失った宝を語るものではない、あの人は、あの天使は、わしの苦しみをあわれんでくれた。独り身のあわれな者を同情から愛してくれたのだ。あの人は死んでいった……その亡骸(なきがら)は、おくつき(墓)に葬られている。みじめな者に残されたのはおまえだけだ。おお、神様、ありがたや、ありがたや」

 

ジルダ「(すすり泣きしながら)いたましいこと、いたましいこと。これはどこに苦い涙をどうして流せましょう。お父さま もうやめて、気をおしずめになって、そのようなお顔をなさると胸が張りさけます。もうやめて、気をおしずめになって、お父さま」

 

リゴレット「おまえだけが、みじめな者には残されている。おお神様、ありがたや、ありがたや!」

 

ジルダ「お名前を明かしてくださいませ。苦しみのいわれをおっしゃって」

 

リゴレット「わしの名前だと?……言ってもせんないこと、わたしはおまえの父親、それでたくさん……。世の中の人はわしを恐れている。なかには恨んでいる者さえある。他の人はわしを呪っている」

 

ジルダ「ふるさと!親戚!お友だちを ではお持ちにならないの?」

 

リゴレット「ふるさと、親戚、友だちだ?(感激して)菩提寺、家族、ふるさと、わしの世界はおまえだけだ」

 

ジルダ 「ああ、あなたを幸せにできるのなら、あたし生き甲斐がありますわ」

 

ジルダ+リゴレット

「菩提寺、家族、ふるさと、わしの世界はおまえだけだ」「ああ、あなたを幸せにできるのなら、あたし生きがいがありますわ。あたしここに来て、3ヶ月になりますけど、まだ町なかを見ていませんの。よろしければ、見物させてくださいませ」

 

リゴレット「まだいっぺんも出たことがないというのか?」

 

ジルダ 「はい」

 

リゴレット 「悲しいかな!」

 

ジルダ(モノローグ)「(えっ、なんて?)」

 

リゴレット(モノローグ) 「気をつけるのだよ!(誰かに跡をつけられさらわれたら!道化師の娘がここではずかしめを受けて笑われたら、……恐ろしや!)(家のほうに向かって)おい!(乳母ジョヴァンニに)正直にいってくれ! 来るときわしを見た者がないか、正直にいってくれ。ああ、見守ってくれ。この花を、見守っておくれ、気をつけて、純潔が汚されないように。ほかの花を倒してしまった。狂暴な嵐からあれを守っておくれ。清いまま親の手に返しておくれ。

 

ジルダ 「なんという情愛、なんという気遣い!なにを恐れて……お父さま?天上では神様のおそばで天使が守ってくださるわ。お母さまの聖い祈りが不幸を取り除いてくださるわ。決して……」

 

リゴレット「だれか外に……」(突然リゴレットは、怪しい人の気配を感じて口をつぐむ)

・・・・・・・・・・・

 

リゴレット 「ああ、見守ってくれ この花を あんた(乳母ジョヴァンニ)にすっかり任せたからね。見守っておくれ、気をつけて。純潔が汚されぬように」

 

ジルダ 「なんという情愛、なんという気遣い、何を恐れて……お父さま? 天上では神様の天使がおそばで守ってくださるわ」

 

リゴレット「ほかの花を倒してしまった。狂暴な嵐から、あれを守っておくれ。清いまま親の手に返しておくれ。ああ見守っておくれ、この花を」

 

ジルダ「お父さま、お父さま、では!」

 

リゴレット「娘よ、娘よ、では!」 

 

(参考資料 SACD 歌劇『リゴレット』マリア・カラス トゥリオ・セラフィン指揮ミラノ・スカラ座 付属のライナーノーツ対訳より ワーナーミュージック・ジャパンより引用しました。以下同じ)

 

父親リゴレットを演じたのは、ティト・ゴッビ(バリトン)です。ゴッビといえば、前回、ご紹介したプッチーニのオペラ『トスカ』では、悪賢い警視総監役で、トスカを籠絡し、第2幕では、トスカによって胸にナイフを突き刺されて壮絶な死を遂げるという、悪逆非道の役を、いかにも憎々しげに演じたことが記憶に新しいでしょう。  

 

『リゴレット』では、打って変わって、娘ジルダ(マリア・カラス)を溺愛する、父親リゴレット役がゴッビに与えられています。父親であるリゴレットは、「おまえしかいない」と娘に切々と訴えます。娘ジルダ役のマリア・カラスも、どこまでもドラマティックだったトスカ役とはこちらも打って変わり、16歳の少女の役で、華奢で可憐で父親を心から慕い思いやる清楚な少女を、コロコロと声がさえずるような「コロラトゥーラ」と通常呼ばれる声質を聴くことができます。

 

日曜朝の礼拝で、少女であるジルダは、一人の美しい容貌の、しかも貧しい学生を見かけ、「初恋」を経験してしまいます。心がときめいたのです。青年とは、教会でちらっとお見かけするだけでしたが、いつしか、二人は話をする機会を与えられて、その純粋な貧しい青年の姿に、ジルダの恋心は燃え上がるばかりです。この恋心が盛り上がるところなのですが、これが、マリア・カラス演じるジルダの2つめの見せどころです。

 

マントヴァ公爵を歌うのは、ディ・ステファノ(テノール)です。前回のプッチーニ『トスカ』では、トスカの恋人で、画家のカヴァラドッシを演じて、トスカの相手役として「星は光りぬ」を熱唱したディ・ステファノですが、本作では、ジルダの恋人貧しく若き青年(実は好色なマントヴァ公爵)役を歌っています。(続きを読む)

 

マントヴァにある歌劇『リゴレット』のリゴレット邸です。もちろん、リゴレットは架空の話ですので、日本でいえば、小説「金色夜叉」の舞台、熱海にある「寛一お宮の松」のような存在です。しかし、なぜか、リゴレット、ジルダ、マントヴァ公爵のやりとりが聴こえてきそうだから不思議です。(ウィキペディア)
マントヴァにある歌劇『リゴレット』のリゴレット邸です。もちろん、リゴレットは架空の話ですので、日本でいえば、小説「金色夜叉」の舞台、熱海にある「寛一お宮の松」のような存在です。しかし、なぜか、リゴレット、ジルダ、マントヴァ公爵のやりとりが聴こえてきそうだから不思議です。(ウィキペディア)