MQAを開発したボブ・スチュアートが設計した世界初のMQA再生対応DAC。 

 

“Meridian Explorer2”の実力をいま再検証する。(後編)  

 

 

 前編で、Explorer2でハイレゾやMQAをヘッドフォンで聴いた。PC内蔵のヘッドフォン端子と比較して格段に向上した音質は、期待通りにプライベートな音楽鑑賞を満足度の高いものへと変えてくれた。Exporer2とヘッドフォンで実現するヘッドフォン・リスニングは確かに魅力的だった。しかし、一方で筆者は、訴えたいことがある。スピーカー・リスニングの楽しさだ。後編ではスピーカーを使ってExplorer2を試してみよう。

 

▉Explorer2から広がる音楽世界。ハイレゾの醍醐味はスピーカーで楽しんでこそのものだ!

 

古来より部屋の空気を震わせて耳と身体で楽しむ音楽の感動は、人間の遺伝子に刻まれてきた。ライブで鳥肌が立つようなあの感覚。心も体も解放されていくようなあの感じ。それを家庭でも再現しようというのがオーディオ技術の進化の歴史であり、オーディオが趣味として愛されてきた証であろう。ハイレゾ音楽ユニットBeagle Kickのミックスやマスタリングチェックでは総合プロデューサーの筆者も作曲兼エンジニアの和田貴史も必ずスピーカーを使っている。それは、もちろんスピーカーが、音場感や定位感を正確にモニターできるということもあるが、本質的には、リスナーがアーチストが作りこんだ音をより忠実に楽しむためにはスピーカーがベストだと考えるからだ。早速、Explorer2をスピーカーでも聴いてみたいと思う。

 

Explorer2は約10cmとコンパクトだが、デスクの限られたスペースを想定して頃合いのサイズのアクティブ・スピーカーONKYOのGX-100HDを用意した。Explorer2の接続端子は自動切換えなのでLINE端子側にケーブルを接続するだけで良い。ミニジャックからピン端子(RCA)に変換できるケーブル(別売)が必要だ。

 

今回は、アコースティックリバイブに特注したPC-Triple C単線導体ケーブル(ミニジャック⇒ピンケーブル変換)をテスト用に使った。付帯音や音色的な癖が無く、素直な音質だ。
今回は、アコースティックリバイブに特注したPC-Triple C単線導体ケーブル(ミニジャック⇒ピンケーブル変換)をテスト用に使った。付帯音や音色的な癖が無く、素直な音質だ。

 

 

▉アクティブ・スピーカーで聴くExplorer2。CD音源が化けた!?ハイレゾはもっとすごい!

 

まずリッピングしたCD音源(FLAC)からチェック。Explorer2は、全ての音源を最大176.4/192kHzにオーバーサンプリングしてアナログ信号に変換している。またメリディアン独自のアポダイジング・フィルターによってアナログ変換時に生じるプリ・リンギング(音の立ち上がり前に付帯するノイズ)を低減させ、より音楽のニュアンスを豊かに再現するという。

 

CD音源は、POPSを中心にセレクトした。ファンク系のインディー作品やアコーステイック楽器が多用されたアニソンなど。普段、何げなく聴いている音源に「あれ?こんな音だった?」と思わせる吸引力がある。スピーカーが写実的で高解像なタイプだったという要素も大きいが、Explorer2の音がCDを化けさせたという印象である。楽器の音がもたつかず、ピシッとした時間軸の鋭さを感じさせ、リズムのキレやグルーブ感もしっかり出ている。

 

クッキリした音像が特に印象的だったため、次に変化球的な素材:ドラマCDを聴いてみた。アニメ作品にしては音圧が低いお気に入りのソースを再生すると、音楽とセリフの分離に優れ、セリフに掛かったコンプレッサーのアタック感が繊細に表現されリアルだ。組み合わせたスピーカーGX-100HDは音色に癖が少ないウェルバランスな好印象モデル。Explorer2のナチュラルな音とマッチングは上々であり、「CDも捨てたものじゃない」と素直に感心した。

 

とは言ってもハイレゾも聴かないともったいない。同じく生楽器中心のアニソンや軽快なジャズトリオ、ストリングスアレンジが壮大な映像系の主題歌などを再生してみる。音数の多いシーンでもそれに負けない分解力が光る。女性ボーカルの艶っぽさ、息づかいはこれぞハイレゾと思える臨場感だ。フルオケとバンドサウンドが融合した楽曲も空間の広がりが価格を超えるスケールを感じさせてくれた。

 

試聴では、スピーカーの中央前方いわゆる二等辺三角形リスニングで行っているが、GX-100HDはスイートスポットが広いスピーカーのようで、多少左右にずれたり少し上から見下ろすようなスタイルでも音楽の印象(定位・音場感)が保たれた。PCで音楽を聴いている方は、是非スピーカーを置く場所を確保してこの立体感あふれる世界を味わって欲しいと思う。

 

Explorer2はシンプルなデザインのため、ノートパソコンともマッチする。任意の端子にジャックを差し込めば自動でヘッドフォン出力、オーディオ出力が切り替わる。
Explorer2はシンプルなデザインのため、ノートパソコンともマッチする。任意の端子にジャックを差し込めば自動でヘッドフォン出力、オーディオ出力が切り替わる。

 

▉これ生演奏か!?と思ったほどの迫力。大型スピーカーでハイレゾを満喫。

 

続いて防音室のメインシステムに繋いでみる。DENONのAVアンプ AVR-X6300Hからバイアンプ接続をしたDALI MENTOR2を鳴らした。こちらは、低域39Hz(±3dB))までの再生が可能で、十分な低域のエネルギー感も備えたモデルだ。エントリークラスのExplorer2とは価格的にアンバランスな組み合わせだが、どんな音が出るか気になる所だ。

 

まず、ハイレゾ音源から女性ボーカルを聴くと、音像がとてもシャープ。ストリングスやボーカルといった生音がクッキリと映える。前後感や定位の描写も精密で、違和感がない。ジャズトリオは、音の立ち上がりと減衰が鋭く正確な印象。生で人間が演奏しているという説得力があってまるでライブのようなグルーブ感を堪能することができた。

 

ホール録音の劇伴では、その正確な出音は継承しつつも、やはり大型スピーカーに変わることで世界観が一変する。音が太くなり、実在感が増す。スピーカー間の距離がより広くなったことも相まって、音場はダイナミックに臨場感を増す。「単に音が大きくなりました」、「左右の音場が広くなりました」、だけではない。音のエネルギーが変わることはここまでリアリティーを変えてくれるのかと感動した。ここで言うエネルギーが増した音というのは、同じ音量でも楽器音が生き生きと余裕を持って鳴っていることである。このポテンシャルは大型システムならではと言えそうだ。

 

ということで、少々無茶な組み合わせだったが、Explorer2を使ってハイレゾをとことん楽しむ、その目的は達成できたと思う。 

 

筆者のSTUDIO OX 。防音された環境を整え、ワイドレンジな大型ブックシェルフ・スピーカーDALI・MENTOR2を使っている。
筆者のSTUDIO OX 。防音された環境を整え、ワイドレンジな大型ブックシェルフ・スピーカーDALI・MENTOR2を使っている。

 

▉続いて、筆者プロデュースの音源をCD、ハイレゾ、MQAでとことんチェック!

 

ハイレゾ音楽ユニットBeagle Kickは、一昨年MQA社のボブ・スチュアート氏の協力を得て、MQA音源も制作した。そこで今回はCDマスターとハイレゾ・マスター。そしてハイレゾ・マスターをMQAエンコードした音源。この3種類で聞き比べを実施した。本文最初にCDとハイレゾの比較、中盤以降はMQAとハイレゾとの比較とした。アルバム「BRAND NEW KEYS」から3曲を選んだ。

 

 - アルバム「BRAND NEW KEYS」

 

「Wonderful World」

  ・CD44kHz/16bit:48.1MB      

  ・FLAC 96kHz/24bit :116MB 

  ・MQA96kHz/24bit:62MB

 

 

1曲目はすかっと爽やかなフュージョン。ハイレゾ版では音数の多さに負けない空間の広さを確保している。

 MQAではさらに分解能が向上し、シンセとキーボードがいっぺんに鳴って音に厚みが増すシーンでは、それぞれが聴き分けられるという新体験に仰け反った。こんな音が含まれていたのかと、新たな発見があった。

 

「祈りの丘」

  ・CD44kHz/16bit:48.1MB  

  ・FLAC96kHz/24bit:74.8MB

  ・MQA96kHz/24bit:39.1MB

 

次に打楽器が多用されたケルティックをじっくりと味わってみた。まずハイレゾでは、民俗楽器やバイオリンの倍音成分を上品にかつナチュラルに聴かせてくれる。

 

 

MQAでは、パーカッションやベースが刻むリズムをさらにタイトに、ボンヤリさせることなく魅せてくれた。木の実のシェイカーが左から右に流れるところでは、一つ一つの実が見えるような超解像に耳を奪われる。例えば、お店で何げなく流れていても「おや?」と思わせる真実味を端々に備えていると感じた。

 

アルバム全15曲トータル容量が757MB!MQAファイルは取り回しが楽で読み込みも早い。まさにCD並の手軽さと言える。
アルバム全15曲トータル容量が757MB!MQAファイルは取り回しが楽で読み込みも早い。まさにCD並の手軽さと言える。

 

「うたかた」

  ・CD44kHz/16bit:41.6MB

  ・FLAC96kHz/24bit :85.0MB

  ・MQA176.4kHz/24bit:42.2MB

 

 

最後にハーモニーが美しいオリジナルの弦楽四重奏「うたかた」を聴いてみた。

録音はDSD 5.6MHz一発録り。ハイレゾマスター96kHz/24bitのPCMでは、DSDっぽい質感の滑らかさやオフ・マイクで捉えた音場感を聴くことができる。

 

MQA版は、オリジナルと比較すると音の感触が異なっていた。部屋の響きより、楽器からの直接音が際立って聴こえる。ファーストバイオリンのソロで、演奏者が身体を大きく動かしながらエモーショナルに弾いてくれていたあの感覚がMQAで如実に表れた。強弱の付け方や緩急などがスタジオで筆者が実際に聴いた音に近いと思う。“記憶を呼び起こす音”がMQAと言えるかも知れない。

 

「ハイレゾで充分に感動できるけど、MQAはもっとステキだ」という実感がより増した印象だった。

 

今回のスピーカーは、幅14cmX高さ26cm。奥行きは最大19cm。デスクトップや家具の上に置くには、コンパクトでアンプが内蔵されているアクティブ・スピーカーと呼ばれているタイプがお薦めだ。


 

Explorer2は、お手軽なヘッドフォン・リスニングに対応しているのはもちろん、LINE端子を使ったスピーカーリスニングでも高い能力を発揮できるモデルだ。今回の試聴記事を通してその活用方法が伝わっただろうか。何か一つでも自分の音楽生活に取り入れようと思って頂けたら嬉しく思う。

 

ハイレゾを楽しむのは案外難しくない。MQAは音楽の本当に姿にもっと近づける。あとは一歩、踏み出すだけだ。

 

Text by Toru Hashidume 2018


 

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機材提供:

オンキヨー&パイオニアイノベーションズ株式会社

 

ハイレゾ対応 パワードスピーカースシステム

GX-HD100(B)

 

色付けを極力排除しストレートに音源の魅力を聴かせてくれる、そんな生真面目なスピーカーだ。楽器の色艶やまろやかは、わざとらしさを感じない程度に小さじいっぱい投入。そのさじ加減が絶妙で、地味で味気ないスピーカーとは言わせない旨味を内包している。高い解像感と音場再現力も魅力だ。多彩な音声入力にヘッドフォン端子まで付いた気配り満点のモデルだ。(橋爪 徹)