ハイレゾ制作ユニットBeagle KickをMQAで聴く

プライム・ヘッドフォン・プリアンプ Limitedで徹底試聴

 

メリディアンオーディオ Prime Headphone Pre  Amprifier

 

文:オーディオライター 橋爪 徹

 

筆者がMQA社と初めてコンタクトを取ったのは、MQA配信が日本で始まる前の2016年3月のことだった。東京の表参道で行われたハイレゾ・イベントで、日本のMQA担当者に直接相談を持ちかけたのが始まりである。ハイレゾ音楽制作ユニットBeagle Kickの総合プロデューサーとして、革新的な音声コーデックを推進しているMQA社の動向にいち早く注目したのだ。

 

その後、自らの音源のマスターとMQA版とを実際に聴き比べることも叶った。晴れて「日本で初めて自分たちの音源をMQA試聴した制作者」となったのだった。この度、我々の2ndアルバム発売を控え、ここ最近の楽曲がMQA化されて提供された。早速、この音源を使い、メリディアンのプライム・ヘッドフォン・プリアンプ を本格的なオーディオ・コンポと組み合わせてどれほどの力量を見せてくれるのか確かめていきたい。

 

MQAの開発者でもある、ボブ・スチュアート氏が設計した『プライム・ヘッドフォン・プリアンプ リミテッドバージョン』(以下、本機)はベースモデルの『プライム・ヘッドフォン・プリアンプ』に別筐体の専用電源ユニットを組み合わせた限定モデルだ。

 

オーディオの世界では、ノイズや振動源ともなる電源部のノイズ対策は音質上の根本的な解決のために重要だ。強力な電源は同時にノイズの源ともなってしまうため、別筐体にすることは、いわばアンプとしては贅沢、なおかつ理想的な解決策とも言えそうだ。

 

 


 

筆者が注目したポイントを紹介しよう。本機の電源ユニットのリアパネルを見るとUSBの入力と出力端子がある。これは何をしているかというと、USB信号そのもの、つまり音楽信号には一切手を加えずにパススルーし、パソコンから伝送される5Vの電流を再生成しているのだ。USBケーブルは、信号ラインと電源ラインがあり、相互の干渉で音質に影響が出ることは知られているが、PCからの盛大なノイズが電源ラインに乗ってUSB-DAC側で悪影響を及ぼすことも見逃せないポイントだ。

 

本機の電源はPCに依存しているバスパワー動作ではないが、USBから来るDC 5Vの電源ラインは受け手の基板内に入るためクリーンな状態の電気が送れるのはメリットになるだろう。持ち上げてみると電源ユニットはズッシリとした重量で内部のトライダルトランスのしっかりとした存在をうかがわせる。その他、本機の詳細については是非、こちらを読んで参考にして欲しい。

 

mqa meridian audio prime headphone  amp

 

まず、防音スタジオのメインシステムと組み合わせて試聴してみる。CDプレーヤーからのアナログ出力(RCA)を繋いで、プリアンプとして試聴した。聴き慣れているFUNKIST×二人目のジャイアンより「#君に届け」やDTMステーションCreativeによる小寺可南子の「Sweet My Heart」を聴く。楽器の音の輪郭がクッキリとして音場の深さも向上したように感じる。プリアンプとして極めて小型であるが、5層基板を使ったノイズ対策と信号経路の短縮化が生かされているのか、全体的にクリアで楽器の音だけがそこに存在するような説得力に感動した。

 

さて、いよいよ本稿の主題。防音スタジオのメインスピーカーに組み合わせてのチェックといこう。今回の試聴に当たり、SPECのパワーアンプRPA-W5STを2台お借りした。ステレオアンプのRPA-W5STの設定をモノラルモードにして、PrimeからのRCA出力はパワーアンプ1台ずつにそれぞれ接続。バイワイヤリング接続に対応したMENTOR2を片チャンネルあたり1台のRPA-W5STで鳴らすという贅沢なシステムだ。

 

Meridian Audio 

  

SPECのアンプと言えば、Dクラスアンプの高効率を活かした放熱口のない流麗なデザインが印象的で、実際スタジオに置いてもスプルース(マツ科トウヒ属の針葉樹)とカエデ材によるサイドパネルとインシュレーターは見た目の暖かさがあって美しい。もちろん、このデザインは音質への貢献も小さくない。この高品位なアンプ、しかもモノラル使いでワンペアというパワーアンプに本機を組み合わせたらどうなるか、ワクワクしながらセッティングを行った。

 

 

spec rpa-w5ST
高性能PWM方式スイッチングデバイスと高品質スイッチング電源システムによる、スピード感あふれるエネルギッシュなサウンドが魅力のSPEC RPA-W5ST

 

 

ハイレゾを聴く前に、PCに取り込んであったCD音源をPCからUSB接続で再生してみる。先ほどと同じCDから、ブラスセクションが印象的なバラードを聴く。音のトランジェントが鋭く音楽情報以外の無駄(ボヤけ)が感じられない。スネアの音像が特によく見えるというか、各楽器が立体的でディテール表現も豊かだ。打ち込みと弦楽器が融合した女性ボーカルでは、電子楽器の音の粒子が細かく、ボーカルの息遣いも一段上のグレード。こちらはCDの時点で非常に音がいいソースなのだが、音の立ち上がりや余韻の消え際もハイレゾさながらで息を呑んだ。

 

Primeは決して何かを足している訳ではない。メリディアン独自のアポダイジング・フィルターが、音の立ち上がり前の微細なボケ(プリーエコー)を補正しているのだ。これはメリディアン独自のDSP技術ノウハウで、これがMQAにも生かされている。MQAではない音源でもその恩恵を受けられるのは嬉しい。

中央のミキシングコンソールと各種アウトボードでリアルタイムにアナログミックスを行った。コンソール前方には部屋の響きを録るためのアンビエンス用マイクがある。限られた時間でテイクを繰り返しながら、同時にミックスも確定しなければならなかった。まさに怪物フォーマットによる現代のダイレクトカッティングだった。

 

メンバーをまとめるギタリストの和泉聡志。抜群のテクニックに、ニクすぎるアドリブセンス。

収録の合間は、適度に冗談を挟みながら場を暖め、よい演奏を作るためのディスカッションにも余念が無い。メンバー全員がこの場限りのセッションに真摯に向き合ってくれた。

 


 

ここからは今回のテスト用にMQA社のボブ・スチュアート氏に特別にエンコードしてもらった我々Beagle Kickの音源をじっくり聴いていく。

 

「ROUTE357」はアナログシンセがフィーチャーされた80年代の薫りが漂うネオジャズフュージョンだ。アナログシンセは、MoogのSub Phattyを使用した。現代のマシンとあってとてもクリアで、澄んだ音が聴けた。つまみを回しながら一つ一つの音を作っていき、音が出来るごとにProtoolsへ録音していく地味な作業は夜通し続いた。ほぼ全ての打込みトラックを差し替えたことで、有機的で音の太いアナログサウンドを実現している。

 

まず通常の192kHz/24bitのハイレゾでも温度感のある電気の音は確認できた。アナログシンセは、デジタル処理を一切介さずに電気回路を通った生の音をLINE出力から取り出すことができる楽器だ。その音はソフトウェアシンセでは難しい肉厚で有機的な質感を持ち、「電気の音」と呼ぶに相応しい存在感を味合わせてくれる。

 

強力な電源ユニットの駆動力を得て、アナログシンセの音は十分なエネルギーを与えられたように太く伸び伸びと鳴っている。電源部にスペースやコスト的な制約のあるプリメインアンプなどでは、どうしても中域が抜けたり低域に量感が足りなかったりする場合があるが、そういった不安要素が皆無だ。

 

さてMQA版にしてみると本機のインディケーターがMQAを認識する。さきほどのアナログシンセの音がより色彩豊かになって、いわゆる”電気の音”が微細な躍動を起こしていたことに気付かされる。リバーブの残響がクリアになるのも聴き所だ。音場全体の透明感も増してくる。SPECのS/N感は期待以上で、微弱音がハッキリと聴き取れる。スピーカーのドライブ能力は十分な余裕を感じさせるいい鳴りっぷりだ。高域に雑味も無いし、歪みの極めて少ないピュアな印象だ。

 

 

アコースティック・ベースは写真の窓越しに見えるブースの中で演奏してもらった。彼は別ブース内でお一人様状態となったのだが、これはみんなと同時に録ったという証拠写真である。芯のあるアコースティックな録り音を確保することができた。


 

 

続いてサックスとコーラスが心地よいフュージョン「EVERYTIME」。この楽曲はフルートも同じ方に吹いてもらっているのだが、MQAになると「人間が演奏している感」が明らかに増している!例えば、音階が変わっていないフレーズでも、奏者の抑揚が実に生々しく聞こえてくるのだ。これはレコーディングに立ち会った身として、「現場」に戻れたような気がして嬉しくなった。

 

今回の試聴システムは総じて周波数バランスは極めてフラットで厳密な音質チェックにも十分なレベルだった。木製インシュレーターを使ったSPECのアンプの影響かアコースティックな温もりも伴って、単なるモニター的な音質傾向には留まらない豊かな味わいもあって音楽を楽しく聴くことができた。

 

この楽曲には佐藤嘉風のコーラスも入っている。収録に使用したマイクはノイマンM149 Tube。Beagle Kickではもっとも使用頻度が高いリファレンスマイクだ。MQA版を聴くと、コーラスの鮮度が明らかに向上した。普通のハイレゾに戻すと、まるで「曇りガラスの越しのジェスチャーゲーム」を体験させられているようなガッカリ感だ。MQA版で味わえた瑞々しいコーラスは、(デジタルになる前)アナログ回路の段階ではこれだけの情報量を持っていたであろうことを伺わせてくれる。

 

オーディオライター 橋爪 徹

 

次はスタジオで一発録音した渋いジャズ「SUMMER VIBE」。こちらはマスターが768kHz/32bit整数で収録した。録音できる最上位のPCMフォーマットで収録されている。マスターから変換した768kHz/24bitと384kHz/24bitの2つをMQAにしてもらった。

 

結論から先に述べると、384kHz版の方は音が太く、楽器のディテール表現も自然で、マスター音源の印象を色濃く感じさせてくれた。通常のハイレゾ音源とMQA音源を比較してみると、演奏のリアリティはもちろん、空間の曇りや濁りが少なくなっていた。

 

みんなで「せーの!」で演奏して、アナログによるリアルタイムミックスを行い2chで録音した本楽曲。オンマイク以外にもアンビエンスマイクも立てていたから、よりルームアコースティックが臨場感を増したのは歓迎できる。768kHz/24bitでは、音のリアリティがスポイルされたように感じた。楽器の音が不自然に痩せてしまっており、特にトランペットとギターは音像の曇りも確認できた。地に足が着いていない音という印象だ。768kHzのMQAをフルデコードできる機材は、思い当たらないので、いずれ一度は聴いてみたいところだ。きっと上記の不満点を一掃する素晴らしい音になるはずだ。

 

その他にも最新シングルからファンクロックの「VOTEVOLUTION」なども聴いたが、総じて演奏に血が通ったような変化を感じる。オリジナルはあくまで録音された音楽作品であり、体裁良く整理されたような完成度がある。

 

対して、MQAになるとスタジオで自分のためだけのライブを聴いているような生っぽい躍動感を味わえるのが驚きだ。しかも、音楽作品としては破綻していない。他にも楽器のディテールや定位表現、リバーブの解像感などといったオーディオ的な側面も良くなるのだが、やはり演奏に込められた抑揚や緩急、イントネーションといった魂の部分を鮮烈に聴かせてくれるのが真価といえるだろう。

 

ハイレゾ製作ユニット ビーグルキック

 

最後にヘッドフォンでもチェックしてみた。まず、筆者リファレンスHPH-MT8(ヤマハ)では、楽曲のイメージを崩すことなく忠実に再現する方向性が見えて、”無個性なことが個性”といえるとても好みの音だった。次にHD800(ゼンハイザー)は、各楽器が明瞭に分離して、中低域が骨太だ。HD800の持ち味である超高解像度の出音がストレートに感じられるのは、筆者のリファレンス・スピーカーでの試聴と共通の印象だった。

 

Beagle Kickの音作りのコンセプトは一言でいうなら、「音楽としてカッコ良く、しかも音のいい楽曲を作る」である。まず、音楽として僕たちが心からカッコいいと思えるための録音、そしてミックス、さらにマスタリングまでを一貫して進めることが大前提だ。

 

ハイレゾ音楽制作ユニットと銘打ってはいるが、音楽の感動をより深めるための手段としてハイレゾを選んでいるに過ぎない。単なるハイスペック録音が目的ではない。ここにはプライドを持って取り組ませてもらっている。今回は、本機でBeagle Kickの最新楽曲をMQAで聴かせてもらった。我々が曲を作ったときの意図を忠実に、より瑞々しく楽しませてくれたPrime。リファレンスと呼んでもいい高音質を体験できた。

 

 

2018 Toru Hashidume

  

協力:スペック株式会社