現在市販されているMQAソフトの中でクラシックの名盤をレビューしていきます。

第1回はチャイコフスキーの弦楽セレナード トロンハイム・ソロイスツを取り上げます。

 

『スーベニール(思い出)パート1』

トロンハイム・ソロイスツ

2Lレーベル MQA Studio 352.8kHz/24bit

 

ノルウェーというと何を連想するだろうか。北欧の国、北極に近くて、ノーベル平和賞の授賞式が行われる国。その昔はバイキングが大海原を闊歩した国、画家ムンク(1863-1944年)の絵画「叫び」、大気の発光現象オーロラが見られる国、北欧の冷涼な空気の中で、住み心地のよさそうな、社会保障の充実した国。音楽好きにもうひとつ、ビートルズの曲「ノルウェーの森」そして村上春樹の小説『ノルウェーの森』・・・。かてて加えて、「2L」(ノルウェー語でトゥー・エル)というオーディオにすこぶるこだわりをもった新進気鋭の録音レーベルがある。「2L」のコンセプトは、「ジャンルから解放されて」をモットーに、「ライブと録音の音の違いはなく、演奏者自身と聴き手にとっての違いを極力なくしていこう」という、今までともすると気がつかなかった音楽の原点に立ち戻りたいというものだ。

 

クラシックのアルバムでは、通常アルバムのタイトルは、作曲者と作品名となることが一般的だが、本アルバム・タイトルは『スーベニール(思い出)』。 『スーベニール』とは、通常、英語で「おみやげ」などと訳されるが、この場合はさらに『思い出』と訳されている。

 

演奏は、中世から続く古都トロンハイム(ノルウェー第2の都市)で活動する若き音楽集団トロンハイム・ソロイスツ(芸術監督で首席チェロ奏者であるオイヴィン・ギムゼ率いる)

 

収録曲は、チャイコフスキー(1840-1893年・ロシア)の『弦楽セレナード』(1880年チャイコフスキー40歳のときの作品)とニールセン(1865-1931年・デンマーク)の『弦楽のための小組曲』(1888年 ニールセン23歳のときの作品)である。

 

チャイコフスキー(1840-1893年)の『弦楽セレナード』(通称弦セレ)を聴いてみた。これが、音楽も小気味よく、実に「クール」で、一度聴いたらもうその「メロディーの虜」になるような音楽なのである。

 

第1楽章は「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」つまりハ長調というもっとも親しみやすい音の調を使っている。冒頭は、印象深いメロディーが鳴り響いたかと思うと、 ファースト、そしてセカンド・バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの5つの弦楽器群が、縦横無尽にひたすらそれぞれのパートが面白いように動き回る。そのさまは聴いている者にとっては、直ちにそのイリュージョンの世界に入り込み、「夢見心地」にされてしまうのである。

 

第2楽章になると「踊り」の音楽が鳴り出し、音の輪となってぐるぐると回り出す。心地よく口ずさみながら踊り出したくなる音楽だ。

 

第3楽章になると、圧倒的な「歌」がゆっくりとしたテンポから駆け上がっていき、最後に高みにまで達していく、この動き出しのタイミングこそが、これまた気持ちの良い瞬間だ。

 

最終である第4楽章は、弦楽器が弾み出すような音楽。あちこちからいろいろな楽器の音が飛びだしてきて丁々発止のつばぜり合いを演じる。どんどんとスピード感、躍動感が増していき、クライマックスを迎えると、再び第1楽章の冒頭の印象的なメロディーがまた現れてきて、最後は劇的な大団円となる。チャイコフスキーの作品は、バイオリン協奏曲でもピアノ協奏曲第1番でも、「悲愴」交響曲でも、メロディーの美しさはたとえようもなく素晴らしい。一度聴いたらもう忘れられなくなる音楽である。日本人にとって、チャイコフスキーは昔から音楽ファンがこぞって好きな作曲家でもあったことが納得できる。

 

もう1曲、ニールセンの3つの楽章からなる『弦楽のための小組曲』では、弦セレより、さらに重々しさが加わって、深々とした森を思わさずには居られないような、渋みのある弦楽アンサンブルの濃厚さをつぶさに聴くことができる。

 

本録音は、ピーンと張り詰めた天井の高い広々としたトロンハイムにあるセルビュ教会で、2011年5月と10月に2週間もかけてDXD(デジタル・エクストリーム・ディフィニション24bit・352.8kHz)収録されている。録音ノートによると、録音プロデューサーはモッテン・リンドベルク、合唱を多く手がけてきたリンドベルクは、その豊富な経験をいかして楽器を配置した。録音風景の写真を見ると、収録マイク群を囲むように弦楽器メンバーが一人ずつ円形に居並んでいる。弦楽器の醸し出すサウンドが高さ方向に立ち上がり、空間に広がっていくので、透明感満点であり、しかも各楽器間の分離もすこぶるよく聴こえてくるのだろう。 弦楽器の表情がいきいきとして見て取れる。とくに、弱い音、静かな音ピアニシモの部分では、その音のやりとりの表情の微妙な変化や起伏感がわかってMQA音源としての楽しみが増えてくる。

 

北極に限りなく近いノルウェーのトロンハイム・ソロイスツの微動だにしないクールなサウンドは、我々に新しいノルウェーのイメージを抱かせてくれる。 さてトロンハイムにある広々としたセルビュ教会で録音された本アルバムに耳を傾けながら、村上春樹の小説『ノルウェーの森』を読み返してみようか。

 

 

(文/野村和寿)

 

雑誌編集者を長くつとめ、1975年にカール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団日本公演のブラームス交響曲第1番の最終楽章で、鳥肌が立ち、帰り道をさまよった経験を持つ。爾来、クラシックを生涯の友として過ごしてきた。編集者時代、クラシック以外のロックやジャズといったジャンルのアーティストと交流を深めるうちに、クラシックと、楽しさにおいて何も変わらないことに確信を持つ。以来、ジャンルを取り払って、SP盤からハイレゾまで、未知なる音の発見の喜びを日々捜している。MQAを提唱しているイギリス・メリディアンには1991年以来2回オーディオ雑誌の取材で訪れ、基本コンセプトに魅せられた。また無類の古いカメラ好きでもあり、特にドイツの光学製品に魅せられ、ライカとそのレンズの蒐集に執念を燃やしている。

 



スーベニール(思い出)パート1』

〜チャイコフスキー 弦楽セレナーデ

ニールセン 弦楽のための小組曲

 演奏 トロンハイム・ソロイスツ

 

レーベル名 2L(トゥ・エル)

ハイレゾ音源提供 e-onkyo music

http://www.e-onkyo.com/music/album/twl0903/