ハイレゾ入門にも最適な、Explorerを聴く


岩井  喬

                                         写真:小平尚典
                                         写真:小平尚典

 ■シンプル、そしてコンパクト。PCオーディオ、ハイレゾ音楽への入門にも最適。

 音楽を楽しむのにPC を使う人が増えてきているが、オーディオに親しみのある方からするとなかなかPC で音楽を聴く気になれないという思いを持たれているかもしれない。しかしデータ化されたファイルでの音楽再生ではCD プレーヤーほど高額なシステムを用意せずとも比較的容易に高品位なサウンド再生を実現できるのである。

 

 いわゆるUSB-DAC (USB 端子を持つDA コンバーター)のみを用意すればよいため、初期投資も最小限に抑えられる。普段使うPC にCD をリッピング(CD データを取り込む作業)し、データファイルに変換。あとはファイルを再生するためのプレーヤーソフトウェアとUSB-DAC を用いればCD がなくとも気に入ったアルバムの楽曲をいつでも高音質で楽しめるようになるのだ。

 

 USB-DAC があれば、最近話題のハイレゾ音源の再生も可能になる。現在、こうしたリッピング音源やハイレゾ音源の再生に対応した、USB-DAC が数多く販売される状況になっている。PCオーディオ用のUSB-DAC は、据置型のコンポスタイルの機種が中心だが、今回試聴したメリディアンの先端のデジタル技術と確固としたアナログ・ノウハウを小さなボディに凝縮したExplorer である。本体重量は50gと軽量で、USB バスパワーで駆動できるので充電などの手間もない。

   

 192kHz/24bit 対応USB-DAC としては非常に小さい部類だが、44.1kHz 系と48kHz 系、各々を分担する2 基のマスタークロックを備えた低ジッター・非同期環境を実現するアシンクロナスモードを採用。高密度なサーキット構成を取り入れつつも最短距離での信号伝送を実現する6 層基板や、オーディオグレードコンデンサーなどの音質にこだわったパーツの選定、優美なフォルムのアルミボディを用いたつくりの良さなど、昨今数を増やしているUSBメモリーサイズのUSB-DAC群のなかでも頭一つ抜きん出た高品位モデルである。価格は手ごろだが、ケンブリッジ工場でのハンドメイドで質感も高く手に持った質感にもハンドメイドのこだわりを感じさせるモデルだ。

コンパクトな基板は6層構造で、アナログ系の信号回路に無駄が無い。入力から出力まで極めて効率の良いレイアウトを実現。音質パーツは同社のハイエンドモデルでも採用されたものも厳選されて採用されている
コンパクトな基板は6層構造で、アナログ系の信号回路に無駄が無い。入力から出力まで極めて効率の良いレイアウトを実現。音質パーツは同社のハイエンドモデルでも採用されたものも厳選されて採用されている

■iTunesの設定を工夫してでCDからより高音質なファイルを作成。

 ここでは、メリディアンのExplorer でPC オーディオを楽しむ実践例としてMac を用いCD をリッピングしたファイルを作成。同じ曲でハイレゾ聴き較べをしてみることとした。CDのリッピングはPC に予めプリインストールされているWindows Media Player やiTunes などのソフトウェアでも行えるが、初期の設定ではMP3 やAAC といった圧縮形フォーマットでCD のファイルを取り込むようになっている。

 

 CD に収録されているクオリティをそのまま引き出したい場合は詳細設定の中のメニュー項目からCD 読み込みに関する設定を確認し、非圧縮のWAV ファイルで取り込めるよう切り替えておきたい。またエラー補間を行わず、何度もリトライしてより精度の高いリッピングを行えるフリー・ソフトウェア(Windows 用のExact Audio Copy、Mac 用のX Lossless Decoder など)もある。これらにより、USB-DAC のポテンシャルをさらに大きく引き出せるので上級者にはお薦めである。

音質バランスに優れたソニーMDA-1A で Explorer を聴く

 まず最初の試聴ヘッドフォンは密閉型のソニーMDR-1A を選んだ。ハイレゾ対応モデルで、音場も広くヌケの良いサウンド性と帯域バランスの良さ、スタジオモニター的でもあるが自然で誇張のない表現力を持つ製品である。

 リッピングのために用意したCD は後々のハイレゾ比較を行うため、192kHz/24bit 版の配信が行われていBOSTON『THIRD STAGE』の1+2「Amanda」を選曲、今回は90 年代にリマスターされた、モービル・フィディリティ版ゴールドCD を用いた。

  

 まずiTunes でのリッピングでは前述のように一般詳細設定にてWAVファイルで取り込めるようにしておき、X Lossless Decoder でも同様にWAV ファイルで取り込む。まずiTunes で取り込んだファイルを再生してみると濃密で滑らかな音像のディティールがふっくらと描かれており、分厚く重ねられたコーラスやギター、ベースの太いプレイラインが耳当たり良い12 弦ギターのクリーンな粒立ちも軽やかかつ煌びやかに浮かび、適度な解像感も得られた。

 

 続いてX Lossless Decoder(CDのデーターをより、忠実に読み取るために使用) でリッピングしたファイルではより音像のフォーカスが定まり、センター定位のヴォーカルも輪郭がくっきりと感じられる。ベースやキックドラムのアタックも芯がはっきりとしており、リズムのタイトさが感じられるようになった。コーラスワークやギターリフの重さもすっきりと感じられるが、個々の楽器の分離が良く、BOSTON ならではの音ヌケ良い爽快なスペイシー・サウンドを味わえる。12 弦ギターやエレキのクリーントーンも鮮やかでクリアに浮き立つ。ゴールドCD ならではの輪郭の滑らかさや密度感もしっかりと感じられるが、余韻のにじみがないリアルな音色を楽しむことができた。

 

 そして192kHz/24bit のハイレゾ版ファイルを聴く。キメが細やかでリズムパートの分離の良さ、アタック&リリースの正確な再現性も見事である。音場の定位感も丁寧にまとめ、ただ分厚いだけに感じられたエレキギターやコーラスパートの粒立ちも解像感良く捉えることができた。特にリヴァーブなどの残響エフェクトや12 弦ギターなどの高域成分の倍音表現が美しく、ピッキングのキレの良さ、ドラムやベースにおけるアタックの締まりの良さが印象的である。192kHz/24bit ファイル再生に起こりがちな芯の細いカリカリとした表現には陥らず、アナログテープの持つ厚みとリッチさも、適切に再現してくれるExplorer ならではのポイントも好印象だ。ハイレゾ音源の持つ情報量の緻密さ、ゆとりのあるサウンドも存分に感じ取ることができた。

■ヘッドフォン・アンプとしてのドライブ能力をシュアーSRH1840 で徹底チェック

 ここまでは、手頃な密閉型との組み合わせでの音質について確認してみたが、一体このExplorer にはどれほどのヘッドフォン駆動力があるのか、その点も気になったので、インピーダンスが65Ωという、コンパクトDAC ではやや鳴らしにくいヘッドフォンといえるオープン型高級機、シュアSRH1840 との組み合わせもチェックしてみた。

 

 192kHz/24bitのファイルを再生してみたが、SRH1840 の美点であるニュートラルかつクリアなサウンドを損なうことなく、ドラムやベースのアタックの芯が揃うモニターライクな音を届けてくれる。リヴァーブの滑らかかつ微細なリリースが適度な奥行きを演出。爽やかなヴォーカルパートの浮き立ちは誇張なく自然であり、クリーントーンのエレキや12弦ギターの演奏もヌケが良い。

 

  煌びやかなピッキングも付帯感がなく、リズム隊の引き締まり具合も硬すぎず、耳当たり良くまとまる。コーラスワークやギターリフの解像度も高く、重なっている個々のパートの表情も鮮明である。

 もちろん、このSRH1840でもドライブ力に遜色はなく低域のグリップ感、アタックの質の良さもしっかりと感じ取ることができた。


 ここまで2モデルを使った試聴でExplorer の持つ音質について感じたのは、リッピング音源のクオリティの高さ、S/N に優れた再生力だ。さらにハイレゾ音源再生で感じられた密度ある音像表現はこの価格帯のモデルから得られるサウンドとは思えぬレベルであり、音の厚みと分解能の高い音場再現性の高さは驚くしかない。

 女性の声や弦楽器をはじめとする中高域にかけての艶やかな質感描写も見事であり、旋律の流麗さは上級の据置機に通じる品位の高さを思わせるものだった。

光デジタル接続でPC 用スピーカーの人気モデル、オンキヨーGX-77M でリアルな音場を体感

 Explorer にはヘッドフォン出力の他、固定ライン/光デジタル(96kHz/24bit まで)兼用出力(ミニジャックタイプ)も装備しており、プリメインアンプやデスクトップスピーカーへの接続も容易に対応する。 

 

 今回はオンキヨーの192kHz/24bit 対応光デジタル入力を備えるデスクトップスピーカーGX-77M をExplorer と繋いでみた。GX-77M はコンパクトながらも本格的な同軸2ウェイ構成を取り入れており、点音源再現によるリアルな空間表現、定位感の正確さ、高鮮度で切れ味よいサウンドが持ち味だ。Explorer の光デジタル出力は96kHz/24bit まであるが192kHz/24bit ファイル音源のデータも96kHz/24bit で出力されるので、実用上の問題はないと言って良いだろう。 

 

 この組み合わせでは音像の輪郭がくっきりと描かれ、ヴォーカルもスカッとキレ良く浮かび上がる。ハイレゾファイルでは低域の引き締めがより高まり、音場の見通しも深くリズムの抑揚を鮮明に感じ取ることができた。デスクトップ上でもファイルクオリティの違いを描き分ける、リアルなサウンドを楽しむことができる。  

 

 まずはExplorer とPC、そしてデスクトップ用アクティブスピーカーを活用し、ミニマムながら本格的なPC オーディオ環境を構築して旧来のオーディオとの音色の差を体感してみてはいかがだろうか。ここで紹介した商品はどれも比較的リーズナブルな価格帯のシステムであるが、そこから放たれるサウンドはCD では体感できなかった微細な空気の震え、やタッチニュアンスの細やかさまで再現してくれる別次元のものであると実感いただけるはずだ。先端のデジタル&ハイレゾ技術でも頭角を現すメリディアン社初のポータブル機として納得できるポテンシャルを持つことが確認できた。

 

2015 Takashi Iwai

試聴環境
パソコン:Mac Book Pro  

再生ソフト:Audirvana Plus(有償)
リッピングソフト:iTunes ,X Lossless Decoder
ヘッドフォン:ソニーMDR-1A、シュアSRH1840
アクティブスピーカー:オンキヨーGX-77M

USBケーブル:フルテック GT2 Pro-mB