ソフトデコード、Audirvanaで楽しめるMQA96k24bitの実力

指揮者の最も大切な仕事はオーディオ的に言えば時間軸情報の管理ではないだろうか。指揮者はホールの響きや楽器ごとの発音のタイミングの違いを踏まえて指示を与え演奏者は自分の楽器に合わせて瞬時に楽音をコントロールしている。いつ音を出し、いつ音を音を終熄させるか。アーチストは研ぎ澄まされた時間を聴衆と共有している。
指揮者の最も大切な仕事はオーディオ的に言えば時間軸情報の管理ではないだろうか。指揮者はホールの響きや楽器ごとの発音のタイミングの違いを踏まえて指示を与え演奏者は自分の楽器に合わせて瞬時に楽音をコントロールしている。いつ音を出し、いつ音を音を終熄させるか。アーチストは研ぎ澄まされた時間を聴衆と共有している。

 

最近、Mac用の音楽再生プレーヤーAudirvanaがMQA96k24bit再生対応となった。ネット上でも紹介されているのでご覧になった方もいらっしゃると思う。幸運なことに、Audirvanaは試用することが出来るし、MQAもフリーダウンロードが出来る。左脳でどうなんだろうとモヤモヤ考えるより、まずは聴いてみるのも悪くないと思うので、ちょっとその方法について書いてみることにしたい。MQAについて興味をお持ちの方もよろしければお付き合いください。

 

①フリーのMQAファイルを2Lからダウンロードする

 

音楽あってのオーディオ談義であるので、まずは2LのフリーMQA音源の在処を確認してみた。(3月22日現在)グーグルで"2L test" と入力して検索してみると、嬉しいことに今でもMQA音源、それも結構な楽曲がフリーで入手出来る環境が維持されていた。その名もfree TEST BENCHだ。お薦めは、任意の楽曲で最高のグレードのファイルとMQAとを落としてみること。PCMなら358もぶら下がっているので試してみることができるのが誠に楽しい。近年これほどのお得感のあるハイレゾサイトはないと思う。

 


 

この2Lのサービス精神には、さらに感動してしまう。何しろ同じ音源を可能な限りあらゆるフォーマットで比較試聴させてくれるからだ。ここから好きな曲、フォーマットを選んでダウンロードするとMQAだけではなく、他の種類のファイルとの比較もできるから一石二鳥。初めてDSD5.8MとMQAを同時にクリックして落としてみたときに、そのダウンロードの早さの違いにきっと驚くだろうと思う。

 

1曲クリックしてみるとCDと同等の転送レートで再生できるということが納得できると思う。

②MQAに対応した新しいAudirvanaを入手する

 

次に再生プレーヤーについても同じく所在を確認してみた。こちらも、Audirvanaのキーワードで検索すると問題なくホームページに到達。トップページから、TRY NOWを選ぶと15日間のフリートライアルサービスが行われていた。規約を読んで同意(I fully agree with the above terms) をクリックすれば15日間のフリートライアルが出来るようになる。

 

③MQA96/24 とPCM358/768Hzとの比較してみると・・・

 

さて、AudirvanaをインストールしたMacとUSB DACを接続すればMQAのファイルも再生準備は完了。MQAでは、周波数特性やダイナミックレンジというレガシーな指標については、何も改善されているだけではない。従ってWAVやFLACあるいはDSDと比較して何かの音の違いを感じるとすれば、それこそが、音の時間軸の情報の改善の効果と考えられる。実際に色々なファイルと比較してみると判りやすいと思われる。

 

MQAとして市販されているファイルはデーターとしては何の変哲もないflac形式のものだ。(Wav,ALAC形式でも技術的には可能)

 

ここでデーターを元にMQAファイルの音質上のメリットに触れたい。MQAは過渡特性(インパルス応答)という時間軸のリンギングノイズが10マイクロ秒のレベルに収まっている。ソフトでコードされたMQA96kの精度は、従来のPCMコーデックの768k再生時のデーターより優れているのだ。(下図参照)

 オリーブのラインは、従来のPCMやDSDの時間軸解像度の変化。赤線はMQAだ。同じ96kでもMQAと従来のPCMでは、リンギング(時間軸のにじみ、ぼけの大きさ)が大きく異なることが見て取れる。MQA96kでは、時間軸情報の再現性は、10マイクロ秒プラスαとなっている。これをPCM384kと比較しても10分の1近くになっていることに気がつく。さらに、MQAでは96k - 192k - 384k - 768k でだいたい同じ水準のメリットを享受することが出来ている。

縦軸は、時間軸のリンギングノイズの長さを表す。人間は数マイクロ秒まで感知可能とされる。
縦軸は、時間軸のリンギングノイズの長さを表す。人間は数マイクロ秒まで感知可能とされる。

 

④なぜ、96kまでしかソフトデコードしないのか?

 

Audirvanaが96kまでしか対応しないことについて、色々な意見があるようだ。正直に言うと、フルで楽しめるだろうと予想していた方が多かったのではないだろうか。(小生もそうだっった!)結論から言うと、ソフトデコードは色々な環境で安定して動作し、スタジオで担保されたマスタークオリティを再現させるという観点でスタンダードが決められたものだそうだ。

 

ソフトデコードでオリジナルの周波数まで完全に再生させないのは、商業ベースの理由で制限しているなどの見方もあるようだが、小生が開発者のボブスチュアートの話を聞いたことからすると、純粋にMQA非対応のあらゆるデバイスを想定して最良の結果をもたらすための仕組みだと判った。

 

最良の結果とは、もちろんスタジオでお墨付きを得たアナログ出力を再現させること。96kとか24ビットとか数字のことではないのだ。

 

しかし、ボブさんから説明を聞いて安心したのはソフトデコードされた96kMQAデーターは、コア(核)と呼ばれていて、これもスタジオでマスタークオリティ(アナログ)としてチェックされているそうだ。フル展開された音質と同様に制作者によってギャランティされたものだ。

 

 

⑤MQAのエッセンスはAudirvanaで再生される『コア』に凝縮されている。

実際の楽曲の中で、96kのデーターにどんな要素が含まれているか、そしてそれ以上の帯域のデーターがどういう要素で構成されているものか。ちょっとここで触れてみたい。MQAは周波数の階層ごとにきめ細かい、そしてハイスピードで効率的な符号化処理を行っている。英語で階層的(ハイエラキカル)な信号処理と呼んでおり彼らの特許技術にも深く関連しているテクノロジーだ。

 

まず、図の緑・紺のラインで示した暗騒音は音楽再生の前・中・後に聴くことになるもので、録音環境の環境騒音およびアナログのノイズ(ピークと平均値)である。赤ラインとノイズレベルを示す緑・紺のラインはP点で交差している。P点より先、Cの領域の信号成分はノイズに埋もれていると考えられる。

 

素材によってP点の位置は異なるが、40k付近になることが多いという。コアと呼ばれるのはオレンジ色の三角地帯だ。Audirvanaは、MQAの音楽信号の折り紙を1回展開して、このコアの部分をビットパーフェクトで再生させる。

 

周波数としては88/96相当で、それ以上の展開をさせオリジナルのアナログ・クオリティを得るには、DSPエンジンだけではなく、オーディオ的に注意深く設計されたハードエンコード(MQAデコーダーを搭載したDACなど)が必要となる、という訳だ。

 左グラフの説明

 ラベルの弦楽四重奏を収録した実データー

 ハイレゾ成分を割と多く含んでいるサンプル

 

・縦軸は音圧、横軸はサンプリング周波数

・赤線:ピーク(最大音圧)のレベル

・緑紺線:ノイズレベル(録音環境の暗騒音)

・オレンジ:コアと呼ばれる信号領域

・AはCD相当の音楽信号

・Bは高い周波数の音楽信号

・Cはノイズフロアに埋もれた帯域の信号

 

 

 

とは言ってもマスターが192であれば、やはり96で展開をやめずにPCだけで192まで戻して再生したい、というのが人情だとは思うのだが、ご存じの通りパソコンは、USB DACやネットワークPLのようにオーディオ専用に設計ではない。96k以上の展開はデジタルの演算処理としてはおそらくMacでも何も問題なく出来ると推測するのだが、最終的にDACから出力されるアナログのクオリティを担保(コントロール)するのがMQAの仕組みである。

 

実際、ソフトエンコードで出力表示された数値が192だろうが384だろうが、出てきたアナログ音質が残念なものであったら誰もマスタークオリティとは言えなくなってしまうだろう。個人的には、むやみに数字を標榜せずに、アナログ音質にこだわって技術者として結果責任を担保したいという哲学の現れだと考えている。

 

 

開発者のボブスチュアートが常々説明してきたことの一つは、MQAは入力=アナログから出力=アナログまでをギャランティするもので、単なる圧縮技術ではないとうことである。まぁ、数字として大きくしておけば、安心だしお得感な雰囲気があって良いと思うというご意見もあるかもしれない。あるいは、192のものを192で聴けないのは不満だと考えるのも常識的なものである。

 

ただ、CD登場以来、忘れられてきた音楽=アナログのクオリティを担保することがMQAの生命であることは間違いない。MQAはすべてにおいて、今までのデジタルオーディオの既製概念を見直して生み出されている。彼らが理想としているコトは、重厚長大なプログラムや数字のマジックではなくて、上のコンセプト図のように、極めてシンプルなアナログtoアナログの音質の品位そのものなのだ。

 

以上、2Lレーベルの無償の音源ファイルとトライアルソフトを利用したMQAお試し実践のご案内と、参考情報を記してみました。テクニカルな説明は、ボブ・スチュアートの話と彼がオーディオ協会に寄稿した論文資料を基にしています。また彼らの海外での技術レポートを正確に、そして分かりやすく教えていただいた伏木雅昭さんにも御礼申しあげます。

 

 

最後に付け加えたい。スタジオで収録されたマスターを今流に言うところの『神』とするのがMQAの哲学である。マスターより良い音になる、創るとか作るという考え方はMQAには皆無だ。ファイルサイズが小さくて音質も改善する、という表現だけが一人歩きすると、まるでマジックのような印象を持たれている人も少なくないと思う。

 

ケーブルも含めて、正しく伝送する=悪くしないというという気配りがマスタークオリティの『再生』には不可欠である。それをスタジオから我々の再生機器まで一気通貫でAD-DAのシステムとして考えたのがMQAというコーデック技術である。

 

MQAの開発ではすべてのオーディオ機器や伝送経路はロッシーであると再認識して進められたという。すでにマイク、マイクケーブルからしてロッシーであるというのがボブ・スチュアートの口癖である。今までのAtoD、DtoAのプロセスで『あやふや』になっていた貴重な時間情報、ノイズに埋もれた音楽のエッセンスを再現させる工夫をしているに過ぎない。MQAは音を良くする技術ではなく、よりオリジナルのクオリティ~鮮度に近づくための壮大な創意工夫の哲学なのだ。

 

我々の先輩はアナログレコードの時代から、創意工夫を凝らしてオーディオを楽しんできた。自分のリスニングルームに、コンサートホールを出現させたり、ボーカリストの姿を見出したりすることは、脳によってイメージが再生されるものだ。音楽の本質に近い興奮や感動ではないだろうか。

 

しかし、一部のオーディオファンは周波数やダイナミックレンジの数字の呪縛にとらわれすぎていると一方的に批判する風潮があるのもおかしい。前掲のグラフのように、やはりサンプリング周波数の拡大によるメリットもあるあるからだ。

 

MQAでも96k以上にフルに展開すると、高い周波数成分を直接に聴くことはできないのだが、エッセンスであるコアの部分の時間軸情報の精度が上がるとボブ・スチュアートも論文やインタビューで明らかにしている。

 

ビット方向の拡張が音楽表現や脳にどういう影響を与えるかという研究成果はあまりなじみがないが、高い周波数が人間の脳におよぼすポジティブな影響については日本でも世界でも研究が進んでいることは衆知のところだ。

 

すでに、MERIDIAN以外のブランドでも、DACの性能に時間軸情報の再現性を追求する動きが出てきている。音楽を楽しむ道具としてのオーディオの楽しみ方がもっと広がっていく機運が高まっているように思う今日この頃である。まずは、15日間しかないがMacでUSB DACをお使いであれば体験してみて欲しい。